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チャレンジド・アソウ 新大阪事業所 管理者
サービス管理責任者
監修:池田 倫太郎
株式会社チャレンジド・アソウ
立ち上げの中心メンバー。
就労移行支援事業、就労定着支援事業、
特例子会社の運営を行う。
抜毛症(トリコチロマニア)の定義とは?
抜毛症は、抜毛癖とも呼ばれる精神障害の一種で、美容目的以外で自分の体毛を自分で抜いてしまう、という病気です。
人口の約1~2%にみられる病気で、そのうちのおよそ90%は女性です。発症年齢は子供や思春期に多いとされていますが、最近では成人男性が発症するという例も増えています。
また、抜毛症に関するブログを書いている方、自身が抜毛症であることやそれを克服したことを公表した女性芸能人・有名人の方もおり、まだ日本での認知度はあまり高くないものの、注目が集まっています。
ここでは抜毛症の特徴や治療法のほか、この障害を持つ方に対する支援についても取り上げています。
病気の特徴と症状の種類
抜毛症の特徴
大きな特徴は「体の毛を自分で抜いてしまう」という点ですが、ただ単に体の毛を自分で抜く、ということなら白髪やムダ毛、ひげを抜くこともこの障害に当てはまるのでは?と思う方もいるかもしれません。
しかし、抜毛症はこういった目的があって体毛を抜くのとは違います。
抜毛症の人は、本人も無意識のうちに体毛を抜いてしまうことがあるんです。中には意識的に抜毛する部位があったり、目的の毛を探すことに時間をかけることもあります。
症状は人によって様々です。1日の中で短時間に行うこともあれば、数時間を費やしてしまったりと、頻度にも差があります。
また、毛を抜いてしまう場所や抜き方も人によって違ってきます。髪の毛や眉毛、まつ毛など、服で覆われていない部位の毛を抜くことが多いですが、他の部位でも抜毛癖がみられることはありますし、経過とともに部位が変化することもあります。
抜毛の仕方としては、特定の種類の毛を探して引き抜くというものや、毛根を傷付けないように慎重に引き抜くというものが挙げられます。
さらに、毛を抜いた後に指で挟んで転がしたり、毛を噛んだりするといった行動を伴う場合もあります。抜いた毛を飲み込んでしまうという方も少なくないようです。
女性の場合には、ホルモン変化(月経や閉経期周辺)に伴って症状が悪化しやすいとも言われています。
抜毛症の症状
症状の強さについても個人差が大きいです。眉毛やまつげが完全に喪失するような、体の数か所で体毛が生えてこない部分ができてしまうこともあれば、髪の毛を抜いてしまう場合に、襟足部分を残した完全なはげ頭の様式になるというように一部の毛が薄くなる場合もあります。
共通しているのは、抜毛症の人は自分の外見に不満があるわけではないということです。また、毛を抜く直前には緊張や不安を感じており、抜毛によってそういった気持ちが和らいで満足感や気持ちいいといった快感のようなものを覚える、ということも挙げられます。人によっては、毛を抜くことで頭皮のかゆみのようなものが緩和するという方もいるようです。
抜毛によって頭皮や眉毛、まつげといった比較的目立つ部位の毛が失われた場合に、自身の外見の変化に困惑したり、その外見を恥ずかしいと感じる方もいます。
女性の場合、特に、職業的・社会的にも大きな苦痛を感じ、仕事や学校など公共の場に出ることを避けるようになります。
抜毛症の人は基本的にそれを隠そうとするため、中にはかつらやスカーフを身に着けたり、脱毛部分を隠すためにより広い範囲で抜毛をするという方もいます。
抜毛症の診断基準
抜毛症は下記DSM-5の診断基準によって診断されます。
- 体毛を繰り返し抜き、その結果として体毛を失う
- 体毛を抜くことを減らす、またはやめようと繰り返し試みる
- 体毛を抜くことで臨床的に意味のある苦痛、または社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている
- 体毛を抜くこと、または脱毛は、皮膚などの他の医学的疾患に起因するものではない
- 体毛を抜くこと、他の精神疾患の症状によってうまく説明されない
少し難しい言葉が並んでいますが、簡単に言えば体毛を抜くこととその結果体の一部の毛が無くなることによって大きな苦痛を感じたり日常生活に支障が出ている状態が抜毛症、という認識で問題ありません。
また、診断基準とは異なりますが、ここに挙げる項目に複数当てはまるようであれば、抜毛症かもしれません。正確な診断をするものではありませんが、身近な人が抜毛症に罹患しているかどうかをチェックする際に参考にしてみてください。
- いつも帽子をかぶっている
- まゆ毛・まつ毛のメイクが激しい
- 髪の毛が濡れたり、風で乱れるのを極端に避ける
- いつも不安そうに考え事をしている
抜毛症の原因と治療法
抜毛症の原因について、詳しいことが分かっていないのが現状です。抜毛のきっかけや理由も人によって様々で、不安な気持ちや退屈な感覚を紛らわすためだったり、日常での緊張に対処するものだったりします。
不安やイライラといったストレスから一時的に解放されるために毛を抜くようになり、それが癖になってしまった、というのが抜毛症の一応の原因とされています。
元々髪を触る癖がある人が発症したり、遺伝的な要素の関連なども挙げられますが、最も多い原因はストレスによるものと考えられています。
根本的な原因がはっきりとしないため、「こうすれば抜毛症が治る」といった明確な治し方や、確実に効果がある薬も残念ながら見つかっていません。
ただ、抜毛症の診断・治療については精神科の対象となりますので、一般的には次のような精神療法が行われます。
1)認知行動療法
うつ病など様々な精神疾患の対策としても用いられる精神療法で、薬を使用せず抜毛癖そのものにアプローチをする治療です。
この療法では、自分では気づきにくい考え方の癖を気づかせ、問題となっている行動を修正していくことを目指します。
抜毛症治療の場合には、認知よりも行動に働きかけることを主としており、以下の3点を主軸とした治療を行います。
①気づきの訓練
抜毛を始めたことに気づけるよう意識を向けます。さらに、抜毛をしそうになるときに特徴的な気分や感覚がないかを自分で気づけるようにします。
そして、そのように気づいた結果を記録します。普段、無意識にしてしまっている行為を意識化することで自分の抜毛癖に関することをチェックできる、ということがポイントです。
②対抗反応訓練
抜毛癖が出そうになった時に、それに逆らう行動(拮抗行動)がとれるように練習をするものです。拮抗行動として、手をぎゅっと握ったり、ペンを握ったり、脇を固く締めてみたりといった行動を数分間以上続けます。
こうした行動は、周囲の人からも目立たない動作なので、授業中や仕事中でも支障がなく、テレビを見たりパソコンの作業中でもできるものです。
③周囲のサポート
治療を進める過程でのサポートの際には否定的な態度は取らず応援を続けましょう。
上記3つを何週間か続けることで、抜毛が別の行動に置き換わることを目指します。
2)薬物療法
抜毛症の症状をコントロールするために、薬での治療を行うこともあります。抗不安薬や抗うつ薬、抗精神薬等による改善効果があるとの報告もありますが、抜毛症に特に効果のある薬は現状ではありません。併発している精神疾患がある場合は、その病気に対する薬を処方する治療が多いようです。
抜毛症に対する直接の治療とは異なりますが、抜毛癖を改善することができても、失われた体毛は再び生えてこないのではないか、という不安がありますよね。
自然に戻ることが難しい場合に育毛効果のある薬を使用することもあるようですが、小学生や中学生、高校生といった成長期に発症し、比較的早期に抜毛癖が収まれば、ほとんどは時間の経過とともに自然に元の状態に戻るようです。
治療を進める上では、抜毛症を抱える方への理解が非常に重要になってきます。行動療法や薬の投与を行なってもなかなか効果がみられない場合もあるでしょうし、頭ごなしに否定して簡単に止められるものではないでしょう。
特に小学生などの場合は、本人が悪いことをしていると感じるとそれまで以上に隠れて抜毛を行ない、抜毛症だけでなく、併発する恐れのある皮膚疾患も重症化する可能性があります。
やはり抜毛症に適切に対処していくためには専門機関に相談することが一番です。もし身近な人に「抜毛症かも」という方がいれば、可能な限り病院での相談を勧めましょう。
強迫性障害との違い
抜毛症は精神疾患のひとつですが、他に強迫性障害があります。これは不安障害に分類され、症状例として下記のようなものがあります。
- トイレに行くたびに、自分が汚れたと感じて手を洗うのに長い時間をかける
- 出かける時に玄関のドアを閉めたかどうかが気になり、何度も確かめずにはいられない
こういった疾患は、抜毛症との共通点として人に知られたくない、苦痛を伴い日常生活に支障をきたす、自分でコントロールすることが難しいということが挙げられます。
また、強迫性障害と抜毛症を併発することは決して珍しくないということもあり、これらは互いに関連性があると考えられています。
とはいえ、強迫性障害と抜毛症には異なる点もあります。
特定の行為を行う際、強迫性障害では強迫観念が必ず付いて回ります。強迫観念は、頭に不適切な考えが繰り返し浮かび、それがこびり付いて離れないことで強い苦痛や不安が生じるもので、それにより上記のような行動(強迫行為)を取ります。
また、強迫性障害では強迫行為を行っても強迫観念による不安が消えないのが特徴です。
その一方、抜毛症に強迫観念はありません。抜毛症の人は、抜毛の衝動を感じる時に、特に「毛を抜かなければならない」という不安があるわけではないのです。
また、強迫観念からくる行為ではないため、毛を抜く直前には緊張感が、抜いた後に達成感や満足感があることも強迫性障害とは異なります。
さらに、強迫性障害では行為に及ぶ際に、条件が限定されることがありますが、抜毛症では行為に対する条件がないので、重症化した場合「いつでも、どこでも」抜毛という行動を取らずにはいられなくなってしまいます。
脱毛症との違い
語感がよく似ている抜毛症と脱毛症ですが、その内容は違います。
ここまで書いた通り、抜毛症は体毛を自ら抜いてしまう病気です。それに対し脱毛症は本人の行動によらず体毛が抜ける病気です。円形脱毛症という病気は耳にしたことがあると思いますが、これは典型的な脱毛症です。
どちらも精神的なストレスが原因となる場合があることは共通していますが、抜毛症は精神疾患であり、脱毛症は皮膚疾患であるという点でこの2つは別物であるということがわかると思います。
そのため、それぞれの病気に対する治療も変わってきます。症状の程度にもよりますが、抜毛症の基本的な治療は、抜毛癖を止めることになります。一方で脱毛症については毛が抜けた皮膚に対する治療を行います。
抜毛症で受けられる支援
抜毛症は日本国内ではまだ認知度が低く、疾患を抱える人に対する支援も十分には広がっていません。そんな中でも、抜毛症の改善やを支援する活動を進めている団体や美容院があります。
一般社団法人 日本抜毛症改善協会
2006年に初めて抜毛症に悩む方のご来店により知る事となった抜毛症(トリコチロマニア)現在まで延べ人数にして1400名以上のご相談に対応して来ました。抜毛症に悩む全国の未就学児童から大人の抜毛症まで広くその改善の為の技術や情報サービスを含めた複合コンテンツの提供を行っています。
こちらでは抜毛症に対してできる限り薬に頼らない物理療法を動画で紹介していたり、抜毛症の症状を克服した・症状が軽減したという方たちの実際の声が寄せられています。
また、専門家によるカウンセリングも受け付けており、治療に関することだけでなく病気の対処についての相談の窓口としても利用ができます。
カウンセリング等の支援のほか、数は多くありませんが抜毛症の人に合わせて対応ができる美容院というのも存在しています。
美容院でのケアだけでなく、薬などの治療中の利用を目的としたウイッグ(かつら)を無償で提供するという支援もあります。まつげや眉毛といった部位ではなく髪の毛に対する抜毛への対策にはなりますが、子供さんだけでなく高校生や女性の利用も多いようです。
就労移行支援とは
上記のように抜毛症の改善に対する支援のほか、抜毛症の方が就職をするにあたって利用できる就労移行支援という福祉サービスもあります。
これは病気による障害や難病によって下記のような悩みを抱える人を支援するサービスです。
- 自分に合った仕事が見つけられるか
- 長期間仕事から離れたことで復帰できるか
- 体調や体力にまだ自信がない
この就労移行支援制度は、下記の3つの条件を満たす方を利用対象者として、就職に必要な知識やスキルの向上を最長で2年にわたりサポートするというものです。
- 1.18歳以上65歳未満の方
- 2.身体障害、知的障害、精神障害、難病のある方
- 3.一般企業への就労または開業を希望する方で、就労が可能と見込まれる方
「2」の障害者については、障害者手帳を持っていなくても、医師の診断書または意見書があれば支援対象となります。
この制度による支援では、就職できた時点で終わりではなく、その職場での仕事が続けられるよう、定着支援(原則6ヶ月)も引き続き受けることができます。
前年度の所得により自己負担が発生する場合もありますが、多くの方が無料でこの支援を受けられます。
抜毛症もこの支援の対象になっているので、この病気による障害と診断されたことが理由で職場を離れてしまったけれど、また職場に復帰したいと考えている方はお近くの市区町村役場や就労移行支援事業所に相談してみてはいかがでしょうか。
まとめ
自分の体毛を自分で繰り返し抜いてしまい、体毛が失われることなどによる苦痛を伴う抜毛症について紹介しました。
明確な原因がわかっていないことから確実に治せる治療薬も見つかってはいませんが、認知行動療法や薬による一定の効果が見込める治療法もあります
。病院など専門機関での治療だけでなく、疾患とそれを抱える人への周囲の理解、支援が非常に重要であり、ご家族による支援も大きな役割を持つはずです。
現在では抜毛症に関する支援もさまざまあり、疾患そのものを改善するものから、この疾患を抱える人に対する就労支援まで行われています。