双極性障害と聞いてどんな障害かイメージがつくでしょうか?
こちらの記事では、双極性障害がどんな障害でどんな種類があるのか、そしてそれらを治療する方法についてご紹介していきます。
そして最後には、治療後の就職、社会復帰への流れもご紹介していますので、双極性障害についてじっくりと理解を深めていきましょう。
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チャレンジド・アソウ 新大阪事業所 管理者
サービス管理責任者
監修:池田 倫太郎
株式会社チャレンジド・アソウ
立ち上げの中心メンバー。
就労移行支援事業、就労定着支援事業、
特例子会社の運営を行う。
双極性障害とは
気分が激変する、双極性障害の症状
双極性障害(そうきょくせいしょうがい)はうつ病とよく似た症状がありますが、うつ病とは別の病気で、「躁」の状態が現れることが大きな違いといえます。
「双極」というのは「二つの極端な状態」を意味し、「躁」と「うつ」の正反対の状態を繰り返す心の病気です。
この繰り返しの中で仕事、家庭、財産、信用、生命に大きく影響されることもあり、周りの人が異変に気づき受診させることが重要です。
うつ病と似ている双極性障害の診断
双極性障害の患者数は、うつ病の10%~20%程度とされています。
双極性障害の患者の中には、躁・軽躁状態が出てくるまで数か月~数年程かかる場合もあり、多くはうつ状態で過ごすことが多く、躁状態になるまでうつ病と診断されることがあります。
うつ病と双極性障害が別のものとされているのは、治療法の違いにあります。
うつ病には抗うつ薬が使用されますが、双極性障害に効果があるのは気分安定薬が効果的とされています。
また、再発しやすいという特徴もあるため、薬によってコントロールしていく事も大切です。
躁状態
躁状態は表面上ではエネルギッシュで行動的な状態に捉えられますが、その中には危険行為や常軌を逸するものも多く、自分の評価を落としかねません。
病気であるという自覚がないため、自分の思考や行動が正しいと思い込み、病院での診断が遠ざかることがあります。
躁状態では以下のような様子が見受けられます。
【感情面】
気分が高揚し、自分は何でもできる万能感にとらわれることがあります。エネルギーが満ち溢れ、上機嫌でよく笑ったりする一方で、イライラして怒りやすく、怒りを爆発させるような暴力的な一面もあります。
【思考面】
頭の中で思いつきが押し寄せますが、捉えることができず、誇大妄想を生み出すこともあります。酒に酔ったように物事を楽天的に捉え、無謀な挑戦にもすぐに決断します。
【身体面】
エネルギーにあふれているため、ゆっくりと過ごすことが難しい状態です。睡眠では眠る時間がもったいないとばかりに目が冴え、眠ることができず、食欲や性欲が亢進し、逸脱した行動をとることもあります。
【行動面】
スピード運転や高額な衝動買いで借金をするなど行動の制御ができず、危険な行為をすることがあります。人との接し方では、高圧的な態度、過干渉、暴言など、時間や場所を問わず興奮状態で気持ちを抑えることができません。
うつ状態
双極性のうつ状態は通常の憂鬱感よりも、もっと重いものとされています。
躁状態とは真逆で、うつ状態ではエネルギーの欠如が起き、あらゆることに対して意欲が湧かず、感情が停滞します。
【感情面】
悲観的になり、絶望感やイライラがこみ上げます。中には「感情が湧かず、辛さすら感じない」という人も。自分の在り方を過小評価し、自分自身を責めて悲観的になります。
【思考面】
物事をマイナスに捉え、悪い事にばかり敏感になります。頭の中は悲観的な思考がぐるぐるとまわり、抜け出せないのです。
「つらい→休みたい→休めない→頑張らなくては→頑張れない→自分はダメだ→つらい」、といったように、後ろ向きの感情ばかりめぐる為、本来の思考力や集中力が減退し、小さな判断すらおっくうに感じることがあります。
【身体面】
不眠が見られ、早朝や深夜に一度目が覚めると以後は眠れなくなります。不眠やぐるぐる思考でひどい疲労と体調不良になり、食欲も低下。人によりますが、頭痛や手足のしびれ、悪寒、めまい、口の渇き、肩こりなど様々な症状が体に現れます。
【行動面】
入浴などの、身の回りのことが手につかなくなることがあります。毎日の基本的な生活の行動にも支障が出てきて、何かやらなければと焦りますが、実際に行動できません。
誰にも会いたくなくなるなど、社会から遠ざかり、重篤になると自殺願望が強くなります。
双極Ⅰ型障害と双極Ⅱ型障害
双極性障害には症状によってⅠ型、Ⅱ型があり、Ⅰ型障害は躁状態もうつ状態もはっきりと表れるので診断が付きやすいとされています。
Ⅱ型障害は「軽躁状態」とよばれ、軽躁状態とうつ状態を繰り返します。
双極Ⅰ型障害の現れ方
双極Ⅰ型障害の特徴は躁状態がはっきりと表れます。躁状態の期間は一週間以上続く場合もあれば、そうでないこともあり状態により様々です。
高揚感と易怒性(激昂しやすい)など、攻撃的な面が目立ちます。最初のうちは当事者の気分のみの問題ですが、重症化していくにつれ対外的に影響がおよび、他人への攻撃によるトラブルで人間関係や社会的な面で深刻な損失が大きくなるケースも。
双極性Ⅰ型障害と診断されるのは100人に1人程度と言われており、20代前後の若い人に多くみられ、また、家族内でも見られることがあり、遺伝の影響も考えられています。
双極Ⅱ型障害の現れ方
双極Ⅱ型障害は躁状態が軽い「軽躁状態」とされ、創造的で落ち着いた活動が可能です。
しかし、病気が軽いということではありません。
Ⅱ型はⅠ型よりも摂食障害、不安症、アルコール依存症などの合併が多くみられ、自殺率も高いのです。
双極性Ⅱ型障害はうつ状態の期間が長く、慢性化することからうつ病と診断され、双極性障害には有効的ではない抗うつ薬が処方されることもあります。
躁状態とうつ状態の境界がわかりにくいため、本人や周りの人にも認識されにくく、重症化する恐れがあります。
Ⅱ型は「高揚した気分が少なくとも4日以上ある場合」というのが基準とされています。
発達障害との合併と誤診
双極性障害と、発達障害の特徴が似ているといわれています。
特徴がよく似ているため、誤診されやすいこともありますが、発達障害の合併症として双極性障害を引き起こしている場合もあります。
双極性障害などの精神障害は脆弱因子(素因)に性格や精神的・身体的ストレスといった様々な要因が混ざり合い、急激に社会適応能力が低下します。
一方で、発達障害は先天的な脳の機能障害の一つで認知機能に偏りが起こる障害の総称です。
発達障害には代表的なものとして「ASD(自閉症スペクトラム)」「ADHD(注意欠陥・多動性障害)」「LD(学習障害)」が挙げられます。特にADHDは双極性障害と症状が似ているとされています。
ADHD(注意欠陥・多動性障害)は生まれつきの脳の機能障害の一つで短期記憶が弱く、自分の興味や関心のあるものを最優先する認知特性があります。
集中力が注意散漫な「不注意」、じっとして待つことができない「多動性」、衝動的な行動・言動にブレーキがかからない「衝動性」の3つの特性があり、これらは社会生活に影響を及ぼします。
発達障害の合併症として双極性障害が起こるのは、社会生活での困難が主な原因とされています。これらの特徴は双極性障害と似ており、どちらなのかを見極めるのは専門医にとって難しい問題です。
双極性障害の治療法
治療が難しい2つの理由
双極性障害はうつ病より治療が困難で、長期化する傾向があるといわれています。
双極性障害の治療が難しい理由として主に「診断がつきにくい」、「服薬を続けられない」の2つがあります。
うつ状態はつらい気持ちが強いため自覚できますが、躁状態はエネルギーにあふれ、行動的になることで病気という感覚は持ちにくいのです。
周りの人から見ると、攻撃性などで問題行動が起こる為に違和感を感じますが、本人からすれば元気そのもので調子が良いとさえ思っているため、受診の機会から遠ざかります。
双極性障害の治療として、認知療法を中心とした「精神療法」、気分安定薬を主体とした服薬でコントロールする「薬物療法」、睡眠・生活のリズムを整え、ものの考え方を変えていく「日常生活」の3つを主として進められます。
精神療法
薬物療法とともに精神疾患の治療の柱となるのが精神療法です。
精神療法は物事のとらえ方や考え方により情緒が左右されるため、治療者と患者が一緒に考え方を見つめ直し、思考を適正なものにコントロールしていくというものです。
認知行動療法と対人関係療法、社会リズム療法は重症者を除き、薬物療法を同じくらいの効果があるとされています。
薬物療法
うつ状態といっても、双極性のうつと、うつ病では使用される薬や治療法が違います。
双極性障害のうつ状態に抗うつ薬は有効的ではなく、さらに症状を重くしてしまうことがあります。
躁とうつは気分が上下に大きく乱れている状態。うつ病の治療に用いる抗うつ薬を、双極性うつの人に使用すると、薬によっては躁転やアクティベートシンドロームと呼ばれる焦燥感などが強まる状態が起きやすくなります。
双極性障害のうつ状態にはSSRI、SNRIなどの抗うつ薬ではなく、ラモトリギン、リチウムなどの気分安定薬が中心になります。
(抗不安薬を安定剤と呼ぶことがありますが、気分安定薬とは別物になります)。
また、薬の効果で「治った」と思い込み、自己判断で服薬や通院を中止してしまう人が多くいます。
安定した生活を続けるためには、勝手に止めずに主治医の指示に従った上で、不明点は相談することが大切です。
日常生活
双極性障害の人は、不眠といった症状から一日の生活リズムが崩れがちです。
躁とうつの症状に悩まされているうちに見失ってしまった発病前の自分を思い出し、新たに立ち治していく事が必要です。
睡眠パターン、食事、趣味・興味、技能といった、日常生活のあらゆる面で本来の自分を見つめ直すことで、症状の原因に気が付くこともあります。
最初は難しいかもしれませんが、まずは病気であることを受け入れ、長期の服薬を続け、精神療法の必要性を理解することが大切です。
そして、医師や家族ではなく病気を治していくのは自分だと考えてコントロールしていく事が治癒への近道です。
周りの人はどうすればいい
双極性障害の人は身近な人との関係性が壊れがちです。病気の理解不足から対応がわからず、つい本人を腫れ物扱いしてしまいます。
躁状態、うつ状態に限らず病気をからかったり本人を無視したり、家族間での言い争いなどもプレッシャーや刺激になるので控えた方が良いでしょう。
病気への理解を示し、忍耐強く接していくことが大切です。
もし双極性障害の人とトラブルが起きても感情的ならず、病気の症状だと理解して冷静に対応することができれば、本人も安心して治療を受けることができます。
再発と予兆を見逃さないこと
双極性障害は再発率がとても高いとされている病気です。再発を予防するためには、予兆を捉えて早めに治療を開始することが重要です。
本人はうつ状態や躁状態になる前にイライラや緊張感、飲酒量の増加や不眠など、不安定感を感じることがあるため、速やかに対処することが大切です。
場合によっては1日で急にうつ状態・躁状態に一転してしまうこともあるため、「こんな症状が出たらすぐに受診する」と医師や職場、家庭など、周りの人と約束しておくのも良いでしょう。
双極性障害がある人の就職・就労
双極性障害がある人の中でも定期的な診察、服薬、整った生活リズムを維持し、働いている人・就職を目指している人は数多くいます。
双極性障害がある人の就職活動は一人で始めるのではなく、体調を整えながらまず支援機関や職業訓練所を利用することをお勧めします。
双極性障害がある人が孤立して悩まないためにも、相談できる人がいる場所を作っておくことが大切です。
就労移行支援を利用する
就労移行支援とは、障害や難病がある人が一般企業への就職を目指す場合にサポートしてくれる支援機関の一つです。
利用することで働くためのビジネススキルやコミュニケーションの取り方、生活リズムなどを身に付けることができる障害者総合支援法に基づく福祉サービスの一つです。
精神障害者保健福祉手帳を取得していなくても利用でき、就職後の職場への定着の支援も行っているため、継続した就労を考えている人におすすめです。
社会人経験がなかったり、退職からブランクがある人が社会に出るためのワンクッションとして利用されることもあります。
サポートを受けることにより、職場のミスマッチを防ぐことができ、職場定着率は利用しない人より約22%高いと言われています。
ハローワークを利用する
ハローワークには、一般の就労相談窓口の他にも障害者の相談窓口があります。
診断書や精神障碍者保健福祉手帳がなくても利用でき、担当者に相談しながら就職活動を進めることができます。
ハローワークの求人票にはオープン就労(障害を企業に開示して働くもの)と、クローズ就労(障害を非公開にして働くもの)があります。
症状の度合いや考え方など、担当者と相談して応募することが可能です。