障害者の方の就労移行支援
視覚認知障害とは?症状や発達障害との関係とトレーニング・就職支援

視覚認知障害とは?症状や発達障害との関係とトレーニング・就職支援

小学生低学年のころは字がヘタ、計算が遅い、なわとびやキャッチボールができないという子どもは少なくありませんが、年齢とともに上達していきます。

ところが、社会人になってもこうした不器用さが解消されず、日常生活や仕事に支障をきたしている人がいます。その要因の1つが視覚認知の障害と考えられています。

そこで今回は視覚認知機能について知っておきたいことと、視覚認知に障害のある人の就活を応援する「就労移行支援」について詳しく解説していきます。

チャレンジド・アソウ 広島事業所 /
チャレンジド・アソウ 大阪事業所 /
チャレンジド・アソウ 新大阪事業所 管理者
サービス管理責任者

監修:池田 倫太郎

株式会社チャレンジド・アソウ
立ち上げの中心メンバー。
就労移行支援事業、就労定着支援事業、
特例子会社の運営を行う。

認知機能と発達障害

近年、「大人の発達障害」がメディアでもよく取り上げられ、自分が発達障害であることをカミングアウトする俳優やタレントも増えてきて社会的な関心が高まっています。

発達障害とは、「自閉症スペクトラム(ASD)」と「注意欠如多動性障害(ADHD)」、「学習障害(LD)」の総称で、12歳ごろまでに発症するものを指しますが、知的な遅れがなく、とくに大きな問題を起こすこともない子どもは、家族や教師から「ちょっと変わった子」「どこか不思議な子」と思われる程度で、発達障害があることに気づかれないまま成人期を迎えることになりがちです。

本人も「みんなとどこか違う」という自己の異質性を認識しながらも、知能が高いだけに自分なりに生きる工夫をして乗り切っている場合があります。

しかし、就職すると社会への不適応が表面化してさらに生きにくさを感じるようになります。

そして、「ドラマの主人公と特徴が似ている」「あのタレントの言うことが自分にそっくり当てはまる」という理由で精神科を受診する人が増えているといいます。

発達障害が起きるメカニズムはまだ解明されていませんが、脳の認知機能の偏りが原因と考えられています。

認知機能とは、五感(視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚)、平衡感覚、固有受容覚(頭や手足の位置に関する感覚)を通して情報を取り入れ、脳内で情報と記憶をつなぎあわせたり統合したりして対処法を決め、言葉や文字、身体運動として表出するまでの過程をいいます。

この認知機能に偏りがあると、ある領域の情報は的確に処理できるが、ある領域の情報にはうまく対応できないというように、得意・不得意のアンバランス(凸凹)が生じてきます。

また、思考や行動にも特徴的なパターンとなって現れるようになります。

なかでも視覚認知に障害があるとさまざまなトラブルを招きやすく、社会不適応につながる大きな要因になると指摘されています。

視覚認知の障害と現れやすい症状


視覚認知の障害が要因と考えられる症状はたくさんあります。その代表的なものとして「読み書きの困難」があげられます。

これはLDの中核的な症状とされていますが、発達障害は併存しやすく、ASDやADHDと診断されている人にも同じように現れることがあります。

文字をスラスラ読めない(読字障害)

1文字1文字は読めるがひとまとまりの単語としてとらえることができない、1行も2行も飛ばし読みをする、「る」と「ろ」のような形の似た字を読み間違えるといったことが多くなります。数字も「96」を「69」と読んで計算してしまうといったミスをしがちです。

このタイプを「読字障害(ディスレクシア)」といい、主に視覚認知に障害があって起こるものと見られています。文字を読むときは、眼球は実に複雑な動きをします。

1文字ずつ目で追う「追従性眼球運動」や、視線を句読点や次の行までジャンプさせる「跳躍性眼球運動」などを瞬時に行っています。

この眼球運動が阻害されると文字を読み分けることができず、たどたどしい読み方になったり、形の似た文字を読み間違えたりしてしまいます。

文字を正しく書けない(書字障害)

漢字の偏(へん)と旁(つくり)を逆に書く、鏡文字(左右逆の文字)を書く、線を1本多くまたは少なく書くなど、文字を書いたり文章をつづるのが困難なタイプで「書字障害」といいます。

この場合も視覚認知が未発達のため、文字の形やバランスを正確に把握できないのが原因と考えられています。英語の読み書きも苦手で、アルファベットのEをヨと逆向きに書いたりします。

書字障害があってもパソコンやスマホがある現代はそれほど不自由な思いをすることもありませんが、社内で伝言メモを書いたり、披露宴などのイベント会場で記帳を求められるなど、手書きをする機会は案外多く、それが苦痛でならないという人もいます。

図形が描けない、地図が読めない

円やひし形などの図形を模写できない、展開図から完成図をイメージすることができないというタイプもあります。

これは視空間認知の障害によるもので、目からの情報を上下、左右、前後などの位置関係や立体的な空間としてイメージすることができないためと考えられています。

地図を見ても平面でとらえるため、自分のいる場所や目的地を把握するのが困難です。

片付けができない

自分の部屋は乱雑で、職場のデスクも引き出しの中はぐちゃぐちゃという人がいます。そのため、必要なものを探すのに無駄な時間をかけることになってしまいます。

片付けができない人には2つのタイプがあります。1つは面倒なことには集中力が続かないために散らかしっぱなしになるタイプで、もう1つは視空間認知が弱いために一定の空間に納まるように整理できないタイプです。

身振り・手振りの意味が分からない

人と会話をするときは、顔の表情や身振り・手振りなどから、相手の本音や微妙なニュアンスを読み取るものですが、発達障害のある人はそうした言葉以外の「非言語コミュニケーション」が苦手です。

これも視空間認知の障害が原因と見られています。自分も無表情で抑揚のない口調で話すため、面白い話でもその面白さが相手に伝わらないことがあります。

運動が苦手

発達障害のある人の多くが、子どものころからなわとびやキャッチボールが苦手で、自転車も乗れなかったといいます。こうした全身を使う粗大運動を行うには、視空間認知が正常に機能する必要があります。

たとえば、キャッチボールをするときは、飛んでくるボールを見てその速度や方向をすばやく判断し、片手のグローブでキャッチしたら、ボールを反対の手で握って相手に向けて投げ返します。

このように右手と左手、足などの動きが別々のものを統一させる運動を「協調運動」といいますが、このときは視空間認知機能をフル稼働させなければならないため、発達障害のある人にとって粗大運動は最も苦手とする領域です。

光を異様にまぶしく感じる

発達障害の人に共通する症状として、ふつうの空間が異様にまぶしい空間に見えるという視覚過敏があげられます。外に出ると全体が白っぽく見えてひどく目が疲れるという人もいます。

また、視野に入るものがすべて目に飛びこんでくるため、見るべき対象物と背景を瞬時に見分けることが困難です。

認知機能の偏りがわかる知能検査


発達障害の診断には、知的障害との違いを明らかにしたり、認知機能の偏りを把握するための知能検査が欠かせません。医療機関でよく用いられるのが「ウェクスラー式知能検査」で、16歳以上は「WAIS Ⅲ(ウェイス・スリー)」です。

この検査は、「言語性IQ」と「動作性IQ」を基本としています。

言語性IQ 耳で聞いたことに口頭で答えるもので、言葉の知識、言葉を使って表現する能力を見る
動作性IQ 絵や記号などを目で見て質問に答えるもので、視覚的・空間的な情報処理能力を見る

平均は100で、言語性と動作性に15ポイント以上の差がある場合、何らかの発達障害があると診断されます。たとえば、言語性が105で動作性が75という結果が出た場合は30ポイントの差があり、聴覚認知優位で視覚認知が弱いことがわかり、ASDの中でもアスペルガー症候群の傾向が強いと考えられます。

この検査結果をもとに、次の4つの群指数を求め、個人内差(その人の中での高い能力と低い能力の差異)を測定します。

言語理解 言語的な知識を、状況に合わせて応用できる能力
下位項目:知識、類似、単語、理解の4つ
知覚統合 視覚的な情報を取り込み、個々の要素を関連づけ、全体に意味のあるものにまとめる能力
下位項目:絵画完成、絵画配列、積木模様、組合せの4つ
注意記憶 注意を持続させ、聴覚的な情報を取り込んで記憶する能力
下位項目:算数、数唱の2つ
処理速度 制限時間内に視覚的な情報を、事務的に数多く、正確に処理する能力
下位項目:符号、記号探しの2つ

平均は100、標準偏差が85~115で、115を大きく上回ればその能力が優れていることを意味し、85を下回れば能力が劣ることを表わします。

たとえば、言語理解が85以下と低ければ会話が苦手、知覚統合が低ければ地図を読むのが苦手、作動記憶が低ければうっかりミスが多い、処理速度が低ければ仕事のペースが遅いというように、つまずきやすい領域を読み取ることができます。

ウェスクラ―式知能検査のメリットは、検査結果をグラフにして視覚化できるので、自分の認知機能の偏りや困難の度合いを客観的に把握することができる点です。

この検査は、どのような仕事が自分に向いているかを判断するときにも役立ちます。

視覚認知機能を強化するビジョントレーニング

視覚認知機能が弱い人は、トレーニングで強化することが可能です。「ビジョントレーニング」と呼ばれる手法で、プロスポーツ選手の中にも採り入れている人が少なくありません。

ビジョントレーニングは単に視力回復を図るだけでなく、眼球を動かす力、両目の協調機能(近くを見るときは右目と左目を寄せ、遠くを見るときは離す機能)、動体視力、立体視能力、奥行き認識機能などを鍛えて「見る力」を向上させるのが目的です。

子どもから大人までだれにでも有効で、現在は発達障害の子のためにビジョントレーニングを導入している小学校もあります。

ビジョントレーニングは専門のジムで指導を受ける方法もありますが、自宅で行うこともできます。1日わずか10分程度の手軽なトレーニングなので忙しい人でも採り入れることができます。

ビジョントレーニングに関する本やDVDが販売されていますから、それらを利用するといいでしょう。

参考:http://www.makino-g.jp/bookdetail/isbn/978-4-8376-7271-5/

視覚認知に障害がある人も利用できる「就労移行支援」とは


視覚認知に障害があっても周囲の人に理解してもらえれば問題ないのですが、頭はいいのに字が書けないとか、ふつうの明かりが耐えられないほどまぶしいといった独特の感覚は、一般の人に理解してもらうのは簡単なことではないでしょう。

そのような人に、職業訓練から仕事探し、就労して定着するまで一貫して支援する「就労移行支援」を利用することをおすすめします。

この制度は、障害者総合支援法に基づく福祉サービスの1つで、利用要件や手続きのしかたは以下の通りです。

利用対象者

次の3つの要件を満たす人が利用することができます。

  • 18歳以上65歳未満の人
  • 身体障害、知的障害、精神障害、発達障害、難病のある人
  • 一般企業への就労を希望し、就労可能と見込まれる人

就労移行支援事業所

このサービスは、就労移行支援事業所に定期的に通って受けることになります。

就労移行支援事業所は社会福祉法人やNPO法人、民間企業によって運営されているサポート施設で、全国に3,400か所以上設けられています。自分の住所地以外の事業所に通うことも可能です。

就労移行支援事業所は市区町村の公式のホームページでもWebサイトでも調べることができます。

事業所によってサービス内容が異なりますから、いくつかの事業所をピックアップして資料を取り寄せ、比較検討して最も適切な事業所を選ぶようにしましょう。

受給者証の申請・交付

この制度を利用するには、市区町村の障害福祉課に「サービス利用計画書」と利用者が障害者であることを確認できる書類を提出して、「受給者証」を交付してもらう必要があります。

この手続きは本人が行うこともできますが、利用する事業所が決まっていないと受給者証は交付されないため、あらかじめ事業所を決めて、事業所に申請手続きを代行してもらうのが一般的です。

利用期間

利用開始から2年以内に就職することを目指しているため、利用期間は2年が標準とされています。就職した後の定着支援の期間は6か月です。状況によってはそれ以降も継続利用が可能です。

利用料金

厚生労働省によって利用料金が定められており、1割を利用者が負担し、9割は市区町村が負担します。利用者の負担額は下記のように世帯収入や通所日数によって上限額が決められています。

区分 世帯収入状況 負担上限月額
生活保護 生活保護受給世帯 0円
低所得 市町村民税非課税世帯
(おおむね年収300万円未満)
0円
一般1 市町村民税課税世帯
(おおむね年収600万円未満)
9,300円
一般2 上記以外 37,200円

※20歳以上のグループホーム利用者で、市町村民税課税世帯の場合も37,200円。

就労移行支援で受けられるサービス

就労移行支援は、利用計画書の作成から始まって、次のような段階を踏んで定着支援へとつなげていくのが一般的です。

ステップ1 利用計画書作成

利用者と支援員が面談を行い、本人の特性や実生活での困りごと、体調、就労に対する希望などをヒアリングし、本人のペースに合わせた利用計画書を作成します。

この利用計画書に障害があることを証明できる書類(障害者手帳か医師の診断書または意見書)を添付して、市区町村の障害福祉課で「受給者証」を申請します。受給者証は1か月後くらいに本人あてに送付されます。

ステップ2 職業訓練

受給者証が届いたら、事業所に定期的に通い、計画書に沿って訓練を受けることになります。プログラムは事業所によって異なりますが、その一例をあげてみます。

基礎講座 挨拶(笑顔、目線、声、おじぎのしかたなど)、身だしなみ、自分の意思の伝え方、相手の話の聞き方(傾聴)など
ビジネスマナー 一般教養、言葉づかい、電話応対のしかた、報告・連絡・相談、メモの取り方、文書やメールの書き方、適切な休憩の取り方など
コミュニケーション
トレーニング
仕事上起こりそうなトラブルを想定した対処法、応接のしかた(お茶の出し方など)、打ち合わせのしかたなど
パソコンスキル 基本的なデータ処理、ソフト活用のスキルアップなど
模擬就労プログラム 事業所内での模擬職場で事務作業や清掃作業などを実体験する

ステップ3. 職場見学・体験実習

事業所と連携している企業を訪問して、実際に仕事を体験します。

職場で社員と一緒に働いてみると、自分の足りないところや逆に人よりできることを発見するなど、これまで気づかなかったことをいろいろ認識できるようになります。実習期間は1週間~1か月です。企業側が本人の能力を認めて、そのまま正式雇用につながるケースもあります。

ステップ4. 就労支援

履歴書の書き方や面接の受け方の指導を受け、就職活動を開始します。事業所は、仕事を直接紹介することはなく、ハローワークや障害者職業センターなどと連携して本人の適性に合った仕事を探します。面接当日は必要に応じて同行します。

ステップ5. 定着支援

就労後も支援員が職場を訪問して、本人には職場内のルールの守り方や効率的な働き方をアドバイスしたり、上司には障害に配慮した指導のしかたを提案するなど、双方に対して支援を行います。発達障害のある人が社会不適応を起こさずに長く働き続けるためには、この定着支援はきわめて重要です。

まとめ


就労移行支援は、学校のように利用者が一律にプログラムをこなすのではなく、その人の課題やペースに合わせて必要なプログラムを選択するシステムになっています。

事業所は運営母体が社会福祉法人や民間企業などさまざまで、支援内容もそれぞれ異なります。

利用期間は2年と長いですから、途中で通うのが苦痛にならないよう、見学会に参加してプログラムの充実度だけでなく、支援員やほかの利用者の様子も観察して、「ここなら通いたい」と思えるところを選ぶようにしましょう。

チャレンジド・アソウの就労支援の特徴

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