障害によって音が聞こえにくい、または聞こえないといった聴覚障害者は、全国で30万人以上いると言われていますが、障害者福祉手帳を取得できない軽度な聴覚障害のある方を含めれば、その数は600万人を超えてきます。
そんな聴覚障害の種類や症状の特徴などを紹介すると同時に、聴覚障害者が仕事を継続して行えるようサポートしている就労移行支援についても詳しく解説。
聴覚障害者は、仕事や就職で不自由な思いをしたことも多いと思いますが、就労移行支援を利用すれば長期的なキャリア形成も夢でないので、ぜひ参考にしていただければと思います。
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チャレンジド・アソウ 新大阪事業所 管理者
サービス管理責任者
監修:池田 倫太郎
株式会社チャレンジド・アソウ
立ち上げの中心メンバー。
就労移行支援事業、就労定着支援事業、
特例子会社の運営を行う。
聴覚障害とは
聴覚障害とは、外部の音声情報を大脳に送るための部位である外耳、中耳、内耳、聴神経のいずれかの障害によって音が聞こえにくい、あるいは聞こえなくなってしまう状態のことをいいます。
聴力レベルは、音の強さを示すdB(デシベル)という単位で表しており、聞こえの程度を測るには、オージオメーターという測定器を使って検査します。
もう一つの聴力レベルを表す単位にHz(ヘルツというものがあり、これは低い音から高い音を表わすものです。オージオメーターで計測すると、聞こえの程度とどこの部位に障害があるのかを知ることができます。
正常な聴力の方は、0dB近辺であり、難聴の程度が強くなるほど数値が大きくなり、30dB以上の方を「軽度難聴」、50dB以上が「中度難聴」、70dB以上が「高度難聴」、100dB以上が「ろう」となります。
日本で定められている身体障害者手帳が交付される聴力レベルは70dB以上からとなっており、全国で約36万人の方が、聴力障害によって身体障害者手帳の交付を受けています。
聴覚障害者というと、聞こえの不自由な人のことですが、聴覚障害といっても原因や障害の種類、聞こえの程度など個人差があるため、聴覚障害者を分類し定義づけすることはとても難しいようです。
聴覚障害は下記の3つのタイプに分かれています。
中途失聴者
元々聞こえていたが何かしらの原因で障害聴覚障害となった。
話すために必要な音声言語は獲得している状態で聞こえなくなったので、まったく聞こえない中途失聴者の方でもほとんどの方は普通に話しをすることができます。
難聴者
聞こえにくい状態ですが、まだ聴力が残っている方。
難聴者の方は、補聴器を使って会話ができる方もいれば、全く聞こえないわけではないがわずかな音しか入らないという方など、症状にはかなり個人差があります。
ろうあ者
生まれつき、または幼い頃から聴覚障害をかかえる人は音声言語を習得する前に失聴ため言葉を話すことができないため、手話を使って会話をします。
聴覚障害の原因
聴覚障害の原因は、障害になった時期によって先天的か後天的かに分類されます。
先天的
聴覚組織の奇形や、妊娠中に風疹などのウイルス感染が原因で聴覚系統が侵された場合
後天的
突発性の疾患や薬の副作用、頭部外傷、高齢化などが原因で聴覚組織に損傷を受けた場合
聴覚障害の種類
聴覚障害は、どの部位の障害かによって伝音性難聴、感音性難聴、混合性難聴の3つに分類されます。
伝音性難聴
(外耳、中耳の障害による難聴)
伝音性難聴は、音が伝わりにくくなったことで聞こえづらくなるだけなので、補聴器などを使用し音を大きくすれば、比較的聞こえるようになります。
症状によっては治療をすることで聴覚障害が改善されることもあります。
感音性難聴
(内耳、聴神経、脳の障害による難聴)
音が歪んだり響いたりしていて、言葉の明瞭度が悪くなることで聞こえづらくなります。
感音性難聴は、補聴器などで音を大きくするだかではうまく聞こえませんが、補聴器の音質や音の出し方を細かく調整することで聞こえるようになります。
老人性難聴も感音性難聴の一種となります。
混合性難聴
(伝音性難聴と感音性難聴の両方の原因をもつ難聴)
外耳、中耳、および内耳の両方に損傷がある難聴で、難聴の程度や、伝音難聴と感音難聴の要素の割合の違いによって症状は異なります。
症状に応じて薬物療法、手術、補聴器や骨固定型補聴器の装用などの治療を行います。
聴覚障害の原因 | 先天的・後天的 |
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聴覚障害の種類 | 伝音性難聴・感音性難聴・混合性難聴 |
聴覚障害者の種類 | 中途失聴者・難聴者・ろうあ者 |
身体障碍者福祉法における聴覚障害者の程度等級
障碍者程度等級 | 判定基準 |
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2級 | 両耳の聴力レベルがそれぞれ100dB以上(両耳全ろう) |
3級 | 両耳の聴力レベルが90dB以上 (耳介に接しなければ大声語を理解し得ないもの) |
4級 |
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6級 |
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コミュニケーション方法
聴覚障害者のコミュニケーション方法は、聴覚障害の種類や程度、聴覚障害となった時期などによってそれぞれ違いますが、一般的に、聴覚障害者のコミュニケーション方法には、手話、筆談、口話、聴覚活用などがあります。
これらのどれか一つを使えば十分なコミニュケーションが取れるというわけではないため、聴覚障害者は場面や話す相手によって複数の手段を使い分けたり組み合わせたりしています。
しかし、声を使って話したり、聞いたりするのが普通と思われている環境のなかで手話、筆談、口話、聴覚活用を用いてコミニュケーションを取るとこは容易なことではありません。周囲にあわせ、音声でのコミュニケーションを強いられることも少なくはないのです。
ですから、聴覚障害者は周りに合わせて分かったふりをせざるを得ないということもあるのです。
一対一でのコミニュケーションならまだしも、大勢の人の中にいることは聴覚障害者にとって大変な労力を伴うため、大勢の人がいるような場に行くことを避けるなどの対処をせざるを得ないのです。
そのため、聴覚障害者は付き合いが悪いなどの誤解を招いてしまうこともあります。
また、筆談をもとめる行為に対して、努力の不足と見なされることがあるため、筆談を求めることも躊躇してしまうこともあるようです。
聴覚障害者は、聞こえ方も、コミュニケーションの方法も、現在までの経験も一人ひとり違うのです。
聴覚障害者のコミニュケーションの方法は以下の通りです。
補聴器
補聴器は伝音性難聴の方にとって最も音響増幅の効果がありますが、基本的に、伝音性難聴は耳鼻科で治療をすれば治すことができるため、実際に補聴器が適応されることは少ないようです。
感音性難聴の人が補聴器を使用する際、騒音に囲まれた場所では効果がない、離れた人の声が聞き分けにくいなどが難点となります。
ですから、静かな部屋では、受け答えができるが、にぎやかな場所だと友達の話す声が聞き取れず、急に無口になってしまうなどのことが生じます。
最近の補聴器は、音を増幅するだけはなく、デジタル信号処理機能や騒音抑制機能などが付いた高性能な機種がたくさん出てきています。
補聴器のタイプは耳介に掛ける耳かけ形や耳穴に入れる耳あな形が多く使われています。
騒音の中や離れた人の聞き取りを改善するための補聴援助システムも選択できるようになっています。
補聴器は一人ひとりの症状に合わせて処方される機種を適切に選択しなければなりません。
更に、最初に自分の症状に合わせて調整していてもその後の聴力の変化や、使用場所などに応じて音量や音質などの再調整が必要となります。
全国には、補聴器のフィッティングに携わる専門家として補聴器相談医と認定補聴器技能者が配置されています。
人口内耳
補聴器を使用しても効果が得られない最重度な聴覚障害者が聴力を回復するための方法として、人工内耳の手術を受けることができます。
しかし、人工内耳は聴力を正常に取り戻してくれるものではありません。
人工内耳装用者の聞こえ方は、中等度の難聴者が補聴器を装用したときの矯正聴力と同じくらいだと言われます。
ですから、人工内耳の手術をしたとしても難聴者としての聞こえの困難を抱えていることには変わりありません。
手話
手話は、先天性の重度聴覚障害者にとって特に重要なコミュニケーション手段となります。
聴覚障害者のすべて人が手話を用いるわけではなく、日常的に手話を使っている方もいれば、まったく手話がわからない方、手話は使えるけど、公の場では使いたくないから使わない方などさまざまです。
手話は、長年単なるジェスチャーとして音声言語よりも低く見られていた時代がありました。その頃は、ろう学校でも公的に手話を教えなかった時期もあったようです。
近年では、通常学校に通う聴覚障害児が増えていることなどの影響で手話を使えない聴覚障害者の方も多いのです。
聴覚障害者=手話ではありませんので、その人の用いるコミュニケーション手段を理解し、尊重することが大切です。
手話には、障害の生じた時期や手話を獲得した時期、教育歴によって、使用される手話も異なるので様々なバリエーションがあります。
ろう学校で手話を学んだ人は、独自の文法を持つ日本手話を使用することが多いようです。
日本語の文法に基本的に沿って手話単語を表していく日本語対応手話は、音声言語を獲得後に途中から失聴した中途失聴者や通常学校で学んだ人が使用することが多いようです。
手話は世界共通と思われがちですが、実は世界共通ではありません。世界各地で、音声言語とは異なる独自の文法を持つ視覚的な言語としての手話が話されています。
口話
口話は、話している人の口元や頬の動き、表情などを視覚的に捉え、文脈なども判断しながら話の内容を推測し、理解しながら表現には音声言語を用いる方法のことをいいます。
聴覚障害者の中には口話に加えて残存聴力を活用して音声情報を手がかりに聞き取りを聴覚口話を活用することもあります。
しかし、たばこやたまごなどの口の動きが似ていることばや同音異義語は、聴覚障害者にとって口の形では区別をつけることは難しく、また初めて聞く話や突然場面が変わると文脈を掴めず口話がしづらくなります。
暗いところ、相手と離れた場所にいる場所もやり取りに限界があります。
聴覚口話は、断片的な情報から話の内容を推測しなければならないので、聴覚障害者は常に不安と緊張を伴います。
抑うつ神経症との関係性
抑うつ神経症は神経症の中の1つの症状とされています。
様々な不安やストレスが原因で抑うつ神経症となる方が多いのですが、聴覚障害と抑うつ神経症を併発してしまうケースもあります。
抑うつ神経症は不安や恐怖など一般的な神経症状に加えて憂うつな気分や心が晴れないなどの軽いうつ状態が続くことです。
うつ病との違いは、うつの程度と持続期間によって区分されています。
抑うつ神経症は、2年以上に及ぶ長期間の軽うつ状態となる症状で、うつ病の患者に比べて妄想をもったりすることは少ないですが、神経質的な性格によって心理的な葛藤が生じやすい傾向がある方に多い症状です。
抑うつ神経症の原因
抑うつ神経症は主に原因は、過剰なストレスによるものです。
ストレスの種類はそれぞれの環境によって違いますが例えばイジメ、仕事のノルマに対するプレッシャー、身近な人の死、重い病気になどで一定期間過剰なストレスがかかり続けた場合発症する可能性があります。
また人によっては心配性の方、気配りが効く方や完璧主義者の方は、ストレスをうまく発散できず、ストレスを蓄積していく傾向がありますので、抑うつ神経症になる可能性が高くなってしまいます。
抑うつ神経症の症状
抑うつ神経症の基本的な症状は主に、感情や考え方が全てにおいてネガティブになり、不安、恐怖、悲哀、抑うつといった感情が頭から離れなくなってしまいます。
こうした感情が原因で体調不良、例えば不眠症や消化不良、下痢、頭痛、性欲減退といった身体的な症状が発生してしまいます。
また時として強い動悸が発生する場合もあり、自分が死ぬのではないかという錯覚に陥るなど、強い動悸が発生する場合もあります。
抑うつ神経症の治療方法
抑うつ神経症の効果的な治療法は、抗鬱剤を服用することなので、どの病院でもパキシルやトレドミンなどの抗鬱剤を積極的に投与してくれます。
また、薬物がきちんとした効果を発揮しないか患者の状態を見ながら量を調整したり投与を強化したりします。
就職活動や仕事に関する就労移行支援制度
耳が聞こえない、あるいは聞こえにくい症状を抱えている聴覚障害者の7割の方がなんらかの仕事での悩みを抱えているそうです。
一番の悩みは、伝えたいことが伝わりにくい、間違って伝わってしまうなど職場でのコミュニケーションの問題です。
国の支援制度の中に障害者総合支援法という障害のある方の社会参加をサポートする法律があります。
その障害者総合支援法に基づく就労支援サービスのひとつに「就労移行支援」があります。
また、就労移行支援の他にも、聴覚障害者が就職を目指すうえで役立つ支援制度として就労継続支援や就労定着支援といったサービスもあるので、ここではそれぞれの支援内容を確認していきましょう。
就労移行支援
就労移行支援とは、65歳未満の就職を目指す障害のある方を対象に一般企業への就職に必要な知識やスキル向上のために訓練を行ったり、就職活動や仕事探しをサポートしてくれる事業所です。
就労移行支援事業所の利用料は、所得によって負担が生じることもありますが、多くの場合は無料で利用できることがほとんどです。
また、障害者手帳を所有していない聴覚障害者も医師の診断書とうがあれば利用できるため、症状の程度に関係なく多くの聴覚障害を抱える方が就労移行支援事業所を利用しています。
就労継続支援
就労移行支援を似たような支援サービスに就労継続支援という制度があります。
就労継続支援は、就労継続支援で一般企業への就職を目指したものの、内定を得る困難な聴覚障害者を対象に働く機会を提供するサービスで、対象者や支援内容により雇用型(就労継続支援A型)と非雇用型(就労継続支援B型)の2つに分けられます。
就労継続支援で民間企業に就職しても問題ないと判断されれば、一般企業への就職を再度挑戦することが可能です。
就労定着支援
就労移行支援事業所でも就職活動で内定をもらった場合、入社後半年は定着支援を受けることが可能です。
しかし、聴覚障害者をはじめ、多くの障害者は継続的に働くことが困難である場合が多いため、これを解決するためにより長期的な定着支援を行うべく2018年に誕生した新しい支援サービスとなります。
就労定着支援は、就労移行支援事業所でもサービスを提供しているとこも多く、最大で2年間のサポートを受けられます。
就労移行支援事業所の利用方法
就労移行支援を利用するためには市区町村の窓口で事業所の利用申し込み手続きが必要です。
近年、就労移行支援を提供する事業所は3,000件を超えており、就労移行支援は身近なサービスになってきています。
聴覚障害が原因で就職が難しいと感じてある方でも就労移行支援を利用することで無事に就職する方が増えています。
個別の支援計画を立ててもらえるので、支援計画に基づいて他の利用者と共に就職に役立つ知識や必要なスキルを学んだり、就職の準備をしたり、就労支援員に就職や体調に関する相談をしたりしながらサポートを受けることができます。
就労移行支援事業所は、前年度の所得に応じて自己負担は発生する方もいますが、殆どの方が無料で利用できます。
就労移行支援事業所を利用するメリット
訓練を通じて仕事に必要なマナーやスキルが身に就く
就労移行支援事業所は、民間企業で働くために必要なビジネスマナーやPCスキルなどを習得することが可能です。
聴覚障害のために障害者雇用枠で働くとしても、最低限なマナーやスキルは必要になってきます。
そこで、就労移行支援事業所では聴覚障害の症状や個人の性格や目標に合わせてカリキュラムを作成し、就職につながるようサポートしていきます。
職業体験に参加することで仕事と自分との適性が見極められる
就労移行支援事業所では、職業訓練だけでなく、実際に職場で仕事をして体験する機会を設けているところが多いです。
実際に、現場で働くことができるため、就職活動をする前に自分の課題や適性などを見極めることができます。
聴覚障害者の場合は、職場でコミュニケーションを取ることが困難に感じる人も多いですが、職業体験で回りの配慮や対処法を見いだせることもあるので自信につながる人もいます。
職業体験を通じて得たフィードバックをもとに就労移行支援事業所のスタッフと再度、今後の就職活動の方針や課題の解決方法を模索し、自分に最適な仕事を探していきます。
就職活動を手厚くサポートしてくれる
就労移行支援事業所自体が求人を扱っているのではなく、ハローワークなどと連携して聴覚障害者一人ひとりの症状や適性に合わせた仕事を探してくれます。
また、就労移行支援事業所では、書類の添削から面接対策まで親身にサポートしてくれるだけでなく、採用する企業側が認められば面接に同行してくれることも。
二人三脚で就活を乗り切れるため、非常に心強いのが特徴です。
また、就労移行支援事業所を経由して就職した障害者は安定した雇用につながると評判が良いので、聴覚障害者個人で就職活動をするよりも内定をもらえるチャンスが高まります。
入社後のサポートもあるので安心して働ける
就労移行支援事業所は民間企業への就職がゴールではなく、その後も継続して働けるようサポートしてくれます。
聴覚障害者だったら、周囲とのコミュニケーション方法で悩む場合も多いですが、そこは就労移行支援事業所のスタッフが職場の人と間に入って問題解決へと導きます。
ずっと一緒に頑張ってきた就労移行支援事業所のスタッフがサポートしてくれるので気軽に相談しやすく、不満やストレスを溜めることなく仕事に集中できるのが魅力です。