トゥレット症候群は、チック症の病型の1つで、日本では発達障害に含まれる精神神経疾患です。
チック症は、運動性チックと音声性チックという2種類の症状がありますが、トゥレット症候群は、運動性チックと音声性チックの両方が同時に出現することが特徴です。
本人の意図しない運動や音声が、急に、繰り返し出現するため、仕事や日常生活にも支障をきたします。また、その症状の特徴から周囲の方から誤解を受けることも多くあります。
この記事ではトゥレット症候群の症状や原因、治療法についてご説明し、トゥレット症候群の方が受けられる支援、就職に際し受けられる就労移行支援について詳しくご紹介します。
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チャレンジド・アソウ 新大阪事業所 管理者
サービス管理責任者
監修:池田 倫太郎
株式会社チャレンジド・アソウ
立ち上げの中心メンバー。
就労移行支援事業、就労定着支援事業、
特例子会社の運営を行う。
トゥレット症候群とは
トゥレット症候群は、本人の意図しない運動や音声などの複数のチックが繰り返し起きる疾患で、日本においては発達障害に含まれます。トゥレット症候群という呼び方以外に、トゥレット症、ジル・ド・ラ・トゥレット症候群と呼ばれることもあります。
トゥレット症候群はチック症の病型のひとつで、このチックとは、勝手に動いてしまう不随意運動のことを指す脳神経科学の用語です。トゥレット症候群で生じるチックの症状の種類は複数存在し、現れる症状は人によって異なります。
チック症・トゥレット症候群の発症時期
また、トゥレット症候群は、18歳以下で発症すると定義されており、小児期(典型的には4歳~6歳の間)に発症することが多く、大人になってはじめて発症するのは非常に稀とされる疾患です。
しかし、チックが単に自分の癖だと思って未診断のまま過ごす場合もあるようで、実はチック症だったという方もいらっしゃいます。
チック症やトゥレット症候群の症状は、だいたい10歳~12歳の間に最も激しくなる傾向にあり、10代後半の青年期に向けて減少していくことが多いとされています。
しかし、稀にチックが大人になっても継続したり、就職や結婚など、生活の変化をきっかけとしてチック症・トゥレット症候群を再発する場合もあります。
大人になってチック症・トゥレット症候群の症状が出現した場合、社会生活上チックの症状が目立ってしまうことがあります。チックの性質上、わざとやっていると誤解される場合もあるため、特に、仕事においては困難な状況に置かれるケースも少なくありません。
そして、チック症・トゥレット症候群が小児期にはほとんど問題にならずに済み、大人になってから重症化してしまった場合、周囲だけでなく、自分自身もどのように対応すればいいか困惑してしまう可能性があります。
トゥレット症候群の症状
トゥレット症候群の症状の出現は、初期のうちは、瞬き(まばたき)などの単純性の運動性チックが一箇所で見られます。次第に運動性チックが身体全体に広がり、ジャンプしたり、自分を叩く、物をやたら触る、蹴る動作など複雑性の運動性チックの症状が複数現れ始めます。
その後、「アッ」「ンッ」と声を発する単純性の音声性チックの出現、他人の言ったことを繰り返したりその場にそぐわない汚い言葉などが出る複雑性の音声性チックの出現というように症状が進行していきます。
本来、チック症・トゥレット症候群で出現するチックの症状は本人の意思に反して、突然、繰り返し出現するので、自分の意志では止められない不随意運動です。しかし、周囲におかしいと思われたくない、迷惑をかけたくないという本人の多大な努力によって、ある程度はチック症状を抑えることができる場合があります。
しかしながら、チック症状が出現するに先立って、ムズムズする感覚やチックを出さずにいられないという前駆衝動が高い頻度で生じます。こうした前駆衝動は、チックを出すとすっきりする感覚があり、逆にチックを止めようと長時間無理を続けると、さらに前駆衝動が強くなってしまうことがあります。
前述しましたが、チック症・トゥレット症候群は、大きく分けて「運動性チック」と「音声性チック」に分類することができ、さらにそれぞれ、単純性のものと複雑性のものとがあります。具体的な症状の種類は以下の通りです。
チック症の種類 | 単純性/複雑性 | 症状 |
---|---|---|
運動性チック | 単純性 | まばたき、肩をすくめる、顔をしかめる、首を急速に振る運動、など |
複雑性 | 蹴る動作、ジャンプする、自分を叩く、倒れ込む、など | |
音声性チック | 単純性 | 咳払いをする、鼻を鳴らす・鼻をすする、「ん」と声を出す、唸る、吠える |
複雑性 | 自分自身の音声や言葉を繰り返す(反復言語)、他人が言ったことを繰り返す(反響言語)、その場にそぐわないことを言う(汚言) |
トゥレット症候群・トゥレット症の診断基準はいくつか存在しますが、一般的には、複数の運動性チックと、さらに1つ以上の音声チックがあり、チックが始まってから1年以上続く場合にトゥレット症候群と診断されます。
トゥレット症候群の特徴は、「複雑」で「症状の数が多く」、「持続時間が長い」、というように、チック症の中でも特に重症なタイプの病型です。現在、トゥレット症候群の発症率は10,000人に5~10人程度とされており、神経系疾患の難病として認定されています。
病型 | 症状 |
---|---|
トゥレット症候群 | 運動チックと音声チックの両方が1年以上みられる場合 |
暫定的チック症 | 運動チックまたは音声チックがみられるが、持続期間が1年以内の場合 |
持続性(慢性)運動または音声チック症 | 運動チックまたは音声チックの一方だけが1年以上みられる場合 |
診断基準:DSM-5
トゥレット症候群 | |
---|---|
A | 多彩な運動チック、および1つまたはそれ以上の音声チックの両方が、同時に存在するとは限らないが、疾患のある時期に存在したことがある。 |
B | チックの頻度は増減することがあるが、最初にチックが始まってから1年以上は持続している。 |
C | チック症の発症は18歳以前である。 |
D | この障害は物質(例:コカイン)の生理学的作用または他の医学的疾患(例:ハンチントン病、ウイルス性脳炎)によるものではない。 |
トゥレット症候群の原因
チック症・トゥレット症候群の原因はまだ詳しく解明されていませんが、家庭内において多発する傾向があることがわかっています。そのため、遺伝的要因がチック症・トゥレット症候群の発症に関与していると考えられています。
ただし、チック症・トゥレット症候群は必ずしも遺伝的要因のみが原因であるわけではなく、環境要因や気質要因が作用することによって現れるとされています。
現在、チック症・トゥレット症候群の原因として、具体的には大脳基底核という運動の調整に関わる部位を含めた脳内回路の異常が考えられています。さらに、ド-パミン系やセロトニン系などの神経伝達物質の異常が関係していると言われています。
遺伝要因と生理学的要因
遺伝要因と環境要因はチック症・トゥレット症候群の出現と重症度に影響するとされ、トゥレット症候群の重要なリスク対立遺伝子と、チック症のある人の家族にみられる遺伝子変異は同じものです。
また、出産の際に生じた合併症、父親の高年齢、低出生体重、妊娠中の母親の喫煙が、チックの重症度の悪化に関連しているとされています。
環境要因
チック症・トゥレット症候群の症状として相手の身振りや音声を意図せず真似する場合があります。権威のある立場の人(例:教師、上司、警察官)とかかわる際には、問題になる場合もあります。
気質要因
チック症・トゥレット症候群は、強いストレスや疲労、不安や興奮によって悪化し、落ち着いて集中しているときは改善します。そのため、学校のテストや仕事に追われているときなどには、しばしば悪化することがあります。
なお、チックは、コカインやアンフェタミンなどの特定の薬剤の使用によって生じることもありますが、他の病気や薬剤によって引き起こされたチックは、チック症とはみなされません。
また、チックが始まった小児期にレンサ球菌(溶連菌)感染症にかかっていた場合、小児自己免疫性溶連菌感染関連性精神神経障害と呼ばれ、レンサ球菌を排除するための抗体がチックの発生や悪化の原因になっていると考えられることもあります。
しかし、現在のところ、まだ多くの研究者がこの関係を証明する証拠はないと考えており、未だ解明されていません。
トゥレット症候群の治療法
チック症・トゥレット症候群の原因はまだ完全には明らかとなっていませんが、効果のある治療法はいくつか存在します。一般的には、以下の4つの治療法がチック症・トゥレット症候群に対して効果があるとされています。
心理教育および環境調整
チック症の症状は青年期に向けて減退していくので、まずは、本人や家族,教師などの周囲の人々に障害の特徴を正しく理解してもらい,チックや併存症をもちながらも成長し,社会適応できるように支援してもらいましょう。
薬物療法
心理教育および環境調整だけで解決できない場合には薬が必要になります。薬は,チック症・トゥレット症候群に対してだけでなく、併存症も含めたどの症状に的を絞って処方するのか,また,副作用の程度も考慮して選択されます。
行動療法
行動療法もチック症・トゥレット症候群に対して効果があるとされています。行動療法には、ハビット・リバ-サル(チックの症状と両立しないような動きを身につけます)などの方法がありますが,日本においてはまだ一般的ではなく、まだあまり普及していません。
外科治療
上記のいかなる治療法でも軽快しない難治性のトゥレット症候群に対しては外科治療も選択肢として考慮されます。外科治療としては、深部脳刺激療法(DBS)という手術があり、これは大脳基底核に電極を埋め込んで持続的に刺激し、脳活動に変化を加えるものです。まずは、上記の3つの治療法でチック症の軽減を目指しましょう。
前述したように、多くの場合,チック症状は,青年期・成人期に軽快します。しかし,少数例ではその後も強いチック症状が残ることがあります。
また,チックよりも併存症の方が問題となることもありますので、チック症・トゥレット症候群と併せて併存症、合併症を生じている場合はそちらの症状も考慮して治療法を選択しましょう。
受診する病院は何科に行けばいい?
チック症・トゥレット症候群は、小児期〜青年期の発症が多いので、主に「小児科」や「小児神経科・児童精神科」で診察を行っています。しかし、成人期になって初めて医療機関を受診する場合には、年齢制限のため診察を受けられないこともあるようです。
その場合は受診前に成人のチック症の受診が可能かどうかを病院に問い合わせるか、「精神科」や「神経内科」を受診したりするのがおすすめです。特に、児童思春期や発達障害を受け入れている医療機関では、大人も治療を受けやすいでしょう。
NPO法人日本トゥレット協会のホームページの「トゥレット症候群が診察できる医療機関一覧 」もぜひご参考ください。
トゥレット症候群の合併症・併存症
チック症・トゥレット症候群によくみられる併存症として,強迫症・強迫性障害や、注意欠如・多動症、注意欠如・多動性障害(ADHD)があります。
ADHDが合併すると衝動性・ 攻撃性が高まる傾向があるともいわれています。また、強迫性障害は、日常生活に支障が出るほどの強い不安やこだわりにとらわれる精神疾患です。わかっているのに止められない考えや行動などが現れるなどチック症状に近い特徴があるため、両者の区別がつきづらい場合もあります。
それ以外にも、睡眠障害や学習障害,自閉症スペクトラム障害,発達性協調運動症などの発達障害やチックに伴ってつらい経験を経ることで、二次障害として不安症状や抑うつ症状、怒り発作などの症状・精神疾患を併発することもあります。
トゥレット症候群の方が受けられる支援
チック症・トゥレット症候群は、日本の行政においては発達障害の定義に含まれています。そのため、軽度の瞬き(まばたき)、咳払い等の一般的なチックではなく、重症な多発性チックを伴うトゥレット症候群の場合、障害者手帳を取得し福祉サービスを利用できるケースもあります。
手帳を持つとさまざまな福祉サービスが受けられるようになる以外に、仕事を探す際、就労移行支援を利用することができたり、障害者雇用枠の応募が可能になります。
医療支援
チック症・トゥレット症候群の方は「自立支援医療」を受けることができるほか、精神障害保健福祉手帳の発行も可能です。
受けられる支援 | 内容 |
---|---|
自立支援医療(精神病院) | 通院治療にかかる治療費や薬代の負担が原則1割となる。 |
精神障害者保健福祉手帳 | 税金の控除や公共料金の免除、福祉サービスが受けられる。 |
市区町村の役場に申請書、意見書,所得確認書類等を提出する必要がありますが、医療費の負担の軽減や、各種サービスを受けることができます。
詳しくは、各自治体の窓口(障害福祉課など)や通院している病院・診療所に問い合わせてみてください。
就労支援
チック症・トゥレット症候群は、発達障害に含まれるので、就職の際には就労移行支援を受けることができます。
就労移行支援は、障害者手帳をお持ちか、もしくは医師による障がいの診断のある~65歳までの就労意欲のある方が利用することができます。就労支援サービスは各市区町村の障害福祉窓口をはじめ、各事業所のWEBサイトからも申し込むことが可能です。
就労移行支援を受けると、まずは面談を行ったうえで事業所へ通い、職業訓練やインターンシップを通して就職活動ができる状態までサポートを受けることができます。また、就職が決まったあともサポートは続き、きちんと職場に定着できるまで支援をしてくれます。
住民登録をしている市区町村でなくても利用できるため、訓練プログラムの内容や事業所の雰囲気を比較して、自分に合う事業所を探しましょう。
就労移行支援とは?
就労移行支援事業所とは、一般企業への就職を希望する障害者を対象とした通所型の就労支援施設です。「障害者総合支援法」に基づいた福祉サービスの1つで、社会福祉法人やNPO法人、民間企業が運営しています。事業所は全国に約3,400か所設置されています(2019年現在)。
職業訓練から就職活動、就職後の定着まで一貫した支援を行うのが特徴で、支援期間は就活までが2年間、定着支援が6か月間です。
企業が重要視するコミュニケーション能力やビジネスマナーを習得することができ、働き続けるうえで課題となる障害特性への対処法も身に着けることができるので、就職後は即戦力となって活躍することが可能です。
このように、メリットが多いことから、企業側としても就労移行支援事業所でトレーニングを積んできた人を優先的に雇用したいという事業主が増えてきています。
まとめ
チック症・トゥレット症候群は、原因が完全に解明された疾患ではないため、まだ根本的な治療法は存在しません。また、意図しない動作や発声をしてしまうチック症特有の症状のために周囲からの誤解や偏見も多く、社会生活で辛い思いを抱えている方も多くいらっしゃいます。
チック症・トゥレット症候群だということがわかったら、まずは医療支援や就労移行支援サービスなどの就労支援を利用して、適切な治療を受けつつ、自分にあった働き方をしていくことが大切です。