精神疾患の1つである双極性障害Ⅱ型は、症状からくる気分や体調の波が大きいことが特徴です。一方で、もとは社交的で気配りができ、ユーモアのある人が多いともいわれます。
この記事では、双極性Ⅱ型、もしくは双極性Ⅱ型と疑われる人に向けて以下の点を解説しています。
- 双極性Ⅱ型とはどういう特徴や症状があるのか
- 仕事ができない、集中できない
- 仕事が続かない
- 就職したいがどうしたら良いのか分からない
- 仕事復帰をしたいがサポートを必要とする
これら問題に対して深刻に悩まれる双極性Ⅱ型の方は非常に多いですが、実はそんな方々にぜひ知っていただきたい制度があります。それが就労移行支援制度。
就労移行支援制度は双極性Ⅱ型の方などの障害や精神疾患を持つ方が就職し、仕事を続けていけるようになるまでサポートしてくれる制度です。
双極性Ⅱ型の方でこれから就職したい、仕事復帰をしたいという方はぜひ参考にしてください。
チャレンジド・アソウ 広島事業所 /
チャレンジド・アソウ 大阪事業所 /
チャレンジド・アソウ 新大阪事業所 管理者
サービス管理責任者
監修:池田 倫太郎
株式会社チャレンジド・アソウ
立ち上げの中心メンバー。
就労移行支援事業、就労定着支援事業、
特例子会社の運営を行う。
双極性障害Ⅱ型とは
双極性障害はかつて「躁うつ病」と呼ばれた通り、うつ状態と、その対極にある躁状態を繰り返す病気で、精神疾患のなかでは気分障害にあたります。
特に躁状態を伴うことで、病的な興奮状態が出現し、トラブルを起こしてしまうことが目立った特徴と言えます。
躁状態の時の行動が日常生活や人間関係に大きな影響を及ぼし、入院が必要になる程度のものである場合は双極性Ⅰ型、行き過ぎた行動を取るものの入院を必要とするほどではない「軽躁状態」を伴うものは双極性Ⅱ型と診断されます。
双極性障害Ⅱ型の原因
双極性障害の原因はまだはっきりとはわかっていませんが、遺伝的な体質があると考えられています。しかしこのような体質の人全てが双極性Ⅱ型になるのではなく、ストレスや周囲の環境が引き金となって発症すると考えられています。
双極性障害Ⅱ型の症状
うつ状態と軽躁状態、あるいは両者が混合した状態を繰り返すのが双極性Ⅱ型の症状です。病相によって全く違う人のようになります。
軽躁状態:別人のようなハイテンション
双極性Ⅱ型の人が軽躁状態にある時は、人が変わったようなハイテンションな状態が続きます。
精神疾患の診断基準となるDMS-5では、以下の項目のうち3つ以上に当てはまるものを「軽躁病」と定義しています。
- 自尊心の肥大、または誇大
- 睡眠欲求の減少(例:3時間眠っただけで十分な休息が取れたと感じる)
- 普段より多弁であるか、しゃべり続けようとする切迫感
- 観念奔逸、またはいくつもの考えがせめぎ合っているといった主観的な体験
- 注意散漫が報告される、または観察される
- 目標指向性の活動(社会的、職場または学校内、性的のいずれか)の増加。または精神運動焦燥
- 困った結果になる可能性が高い活動に熱中する(例:制御のきかない買いあさり、性的無分別、またはばかげた事業への投資などに専念すること)
周囲は異変に気付きますが、本人は「これが普通の自分だ」と思っているので、他人変化が少なくの意見をあまり聞き入れません。
うつ状態:気分の落ち込みだけではない不調
双極性Ⅱ型では、Ⅰ型よりもうつ状態が長く出やすい傾向にあります。
- 一日中ゆううつな気分が続く
- 動作や頭の動きが鈍る(制止)
- 意欲が減退し、好きなことにも興味が湧かなくなる
- からだ全体の調子が悪くなり動けなくなる
うつ状態が重くなると、自分を無価値な人間だと思い(希少念慮)、死にたいという気持ちに発展します(希死念慮)。
混合状態:自殺率が高い要注意期
軽躁状態とうつ状態が同時に存在しているのが混合状態です。軽躁状態からうつ状態に転じたとき、軽躁状態にあったときの爽快感とのギャップに耐えきれず、破滅的な行動を取ることがあります。
また、気分はうつ状態にあるにも関わらず軽躁状態の行動力があるため、自殺率が高いともいわれます。
双極性障害Ⅱ型と関連が深い病気
双極性Ⅱ型の人の中には、軽微の発達障害、特にADHD(注意欠陥・多動性障害)を併せ持つ人も少なくありません。
また、いわゆる「うつ病」(単極性うつ病)と診断されていた人が、5年〜10年後に「双極性障害Ⅱ型」と正しい診断を受けることがあります。軽躁状態にあるときは病院に行かないため、発見が難しい病気でもあります。
双極性障害Ⅱ型の治療
双極性障害Ⅱ型の治療は主に服薬と、カウンセリングなどの心理療法で行います。正しい治療を受けていれば、気分や体調の波を最小限にできます。
しかし、再発防止や良好な状態(寛解期)を維持するために、ほぼ生涯にわたって服薬が必要になります。
双極性障害Ⅱ型で広く使われる薬は気分安定剤(リチウム、ラモトリギン、パルプロ酸など)です。気分や体調の波に応じて増量あるいは減量するか、軽躁状態の時には別の薬を追加(アリピプラゾールなど)するなどして、時期によって調整していきます。
また、「うつ状態」だからといって抗うつ剤、特に古い系統のものを使うと軽装状態を招きやすく、治療には良くない場合が多くあります。
双極性障害Ⅱ型の人におすすめな仕事
双極性障害Ⅱ型の仕事上の特徴は以下のようなものです。
双極性障害Ⅱ型の特徴
1)病相が急変することがある
双極性Ⅱ型の人は、たった一晩の徹夜、たった一日のハードワークといった刺激をきっかけに、急に軽躁状態に転じることがあります。変化の予兆は、本人が認識できている場合と、できていない場合があります。
2)パフォーマンスにばらつきがある
双極性Ⅱ型の人は軽躁状態にあるときは非常に高いパフォーマンスを見せます。しかし軽躁状態の時に頑張りすぎると、反動でうつ状態に転じ、思考や体の動きが急激に鈍くなってしまいます。日によって大きく違う人もいます。
3)ストレスに敏感
特に人間関係から受けるストレスをきっかけに体調を大きく崩すことがあります。
4)周囲から変化を見過ごされがち
双極性Ⅱ型の人は、双極性Ⅰ型の人ほどの派手なトラブルを起こすわけではないため、周囲が変化に気づかないことが多くあります。自分から弱みや悩みを打ち明けるのが苦手な人も少なくありません。
双極性障害の人に必要なのは、第一は生活や睡眠のリズムを一定にすることです。また、軽躁状態のきっかけになる刺激を避けることが重要視されています。
単極性の「うつ病」との違い
双極性Ⅱ型の方は、うつ状態の期間が長いという特徴がありますが、いわゆる「うつ病」とは異なります。
うつ病は正しい治療を行えば完治することが多いですが、双極性障害は放っておくとほとんどの人が再発するため、ほぼ生涯にわたって予防が必要になります。
そのため、働き方についても長期にわたる配慮が必です。
双極性Ⅱ型の人に向いている仕事
双極性Ⅱ型の人の場合、職種よりも環境が大事です。個人差はありますが、好ましいのは以下のような環境です。
- 変化が少なく、負荷が均一である仕事
- 対人関係の少ない仕事
- マイペースでできる仕事
例としては、
- 事務職
- 軽作業
- データ入力などの在宅ワーク
- アクセサリー作りなどの自宅作業
などが挙げられます。
あまりおすすめできない仕事
双極性障害Ⅱ型の人が苦手、または向いていない仕事としては、以下のようなものが考えられます。
双極性障害Ⅱ型の人が苦手なこと
双極性障害Ⅱ型の人は、軽躁状態やうつ状態がいつ出現するか本人でも予測できません。
個人差はありますが、厳密な締め切りやノルマがある仕事で無理をしてしまうと、体調を大きく崩します。
双極性障害Ⅱ型の人に向いていない仕事
- 工場などの早朝・深夜勤務:生活リズムを乱す
- 営業職:無理に気持ちを高めなければならない場合がある
- 転勤を伴う仕事:大きな環境の変化が軽躁あるいはうつ状態を招く
- 接客業:対人ストレスに敏感なため
症状の重さや治療の過程にも個人差があるため、絶対にこれはやってはいけない、ということではありませんが、やはり生活に大きな変化が生まれたり、多くの対人関係を必要としたりする職業は避けた方がよいでしょう。
双極性障害Ⅱ型の人にぜひ知っていただきたい就労移行支援制度
双極性Ⅱ型の方はこれまでお話したように向いている仕事、向いていない仕事があるのでそもそも一人で就職したり、症状が出た後の再就職や社会復帰はかなりハードルが高いと言えます。
そんな双極性Ⅱ型の方におすすめの制度があります。それが就労移行支援制度。
そしてこの就労移行支援制度をもとに双極性Ⅱ型の方はをはじめとした精神疾患や障害を持つ方のサポートを行ってくれるのが就労移行支援事務所です。
就労移行支援事務所とは
就労移行支援事務所は全国に3300カ所以上あり利用者すうは約3万1千人もの方が利用しています。
就労移行支援制度や就労移行支援事務所を利用して一般企業へ就職する事例が広く知られてきており、これからさらなる事業所利用者は増えていくと見込まれています。
就労移行支援事務所の利用対象者の条件
就労移行支援制度を利用できる方の条件は以下の通りです。
- 18歳以上65歳未満
- 精神疾患。障害や難病がある方
- 一般企業への就職を希望する方、一般就労が可能な方
双極性Ⅱ型をはじめとした精神疾患や障害、難病がある方とありますが、障害者手帳が特に必要なわけではなく就労移行支援事務所を利用したいのであれば医師の診断や定期的な通院記録を提出することで利用できる場合があります。
障害者手帳を持っていらっしゃらない方は一度、就労移行支援事業所に電話してみましょう。
就労移行支援事業所ではどのようなサポートを受けることができる?
双極性Ⅱ型をはじめとした精神疾患や障害、難病がある方は就労移行支援事務所で大まかに分けると4つの段階に分けてサポートを受けることが可能です。
- 個人にあった就職までの計画作り
- 体調管理や仕事に役立つスキルの習得
- 利用者の希望や適性を踏まえて就職をサポート
- 就職した後、継続して仕事をしていけるように支援
それぞれを詳しく見ていきましょう。
個別支援計画:個人に合った就職までの計画作り
就労移行支援事業所利用者とスタッフが面談などを通じて、個人一人一人に合わせた就職や仕事を見つけるまでの計画づくりを行います。
双極性Ⅱ型をはじめとした精神疾患や障害、難病がある方それぞれで特性や体調、能力が違いますのでペースや就労移行支援事業所に通う期間や就職活動をスタートするタイミングなどを見計らうことが重要です。
また適職を見つけることができるとその後の生き方も変わってきますので、このステップに時間をかける場合があります。
職業・スキル訓練:体調管理や仕事に役立つスキルの習得
計画が決まった後は目標とする就職先や希望とする就職ができるように職業スキルを習得していきます。
また、一般企業の始業時間、就業時間を意識したリズムで就労移行支援事業所に通うことで、体調管理や仕事を続けていく上で必要となる毎日のリズムを身につけることが可能です。
就職活動サポート:利用者の希望や適性を踏まえて就職をサポート
就労移行支援事業所を利用する方が就職する際に必要な履歴書の書き方や面接の対策など就職活動の際に必要な知識などを習得します。
ちなみに求人応募自体は就労移行支援事業所が行うのではなくハローワークなどが行います。
就労定着支援:就職した後、継続して仕事をしていけるように支援
双極性Ⅱ型を持つ方は就職や仕事を見つけることが実はゴールではありません。大事なのは就職後継続して仕事を続けていくことが大切です。せっかく就職できても続かないのであれば意味がありません。
就労移行支援事業所は利用者と就職先を仲介し、うまく双方が納得して働いていくことができるように業務環境の調整を支援したりもします。
また双極性Ⅱ型の方はうまく上司や仕事仲間とうまくコミュニケーションが取れないこともあるので、体調不良や通院時間の確保などうまく伝えられないなどの問題も解決していきます。
「仕事に行けない」「会社のことを考えるのが辛い」「辞めたい」などこのような気持ちが起こる前に対処することが双極性Ⅱ型の方にとって重要です。
就労移行支援事業所の利用期間や料金について
就労移行支援事業所の利用期間は2年間。万が一就職先が合わず退職し、もう一度就労移行支援事業所でトレーニングを受けたいという方は2年以内であれば再利用可能な場合が多いででしょう。
この点は就労移行支援事業所によって異なりますので問い合わせをしてみると良いでしょう。
事業所の利用に必要な費用はいくら
就労移行支援事業所の利用料金は前年の世帯収入により自己負担額は変わってきます。(世帯収入とは本人だけでなく配偶者の収入も含む収入のこと)
基本的に就労移行支援精度を利用している方はほぼ無料で利用していることが多いようです。
前年の世帯収入の状況 | 負担金額 |
---|---|
生活保護受給世帯 | 0円 |
市町村民非課税世帯 | 0円 |
600万円以下(市町村民税課税世帯) | 9,300円 |
600万円以上 | 37,200円 |
就労移行支援制度と就労継続支援制度の違い
就労移行支援制度とよく混同される制度に就労継続支援制度というのもあります。
この2つの制度の違いは現時点で一般企業への正社員として就職可能か、もしくは希望するかどうかが違いです。
2年以内に就職が可能な方であれば「就労移行支援」、2年以内に一般企業に就職が不安、もしくは不安な方は「就労継続支援」制度を利用するのが良いでしょう。
就労継続支援制度にはさらに2つの種類があり就労継続支援A型と就労継続支援B型もあり細かく違ってきます。
就労移行支援と就労継続支援の違いのまとめ
就労移行支援 | 就労継続支援A型 | 就労継続支援B型 | |
---|---|---|---|
目的 | “就職するために必要なスキルを身につける | 働く場所を提供する | |
対象者 | 一般企業へ就職することを希望する方 | 現時点で一般企業への就職が困難、または不安な方 | |
雇用契約 | なし | あり | なし |
賃金 | 一部事業所を除きなし | あり/平均月収約7万円 | あり/ 平均月収約1,5万円 |
年齢制限 | 65歳未満 | 65歳未満 | なし |
利用期間 | 原則2年 | なし | なし |
これら制度のどれが双極性Ⅱ型の方に合っているのか、判断しかねる場合は就労移行支援事業所に相談してみると良いでしょう。
就労移行支援事業所に通いながら症状とうまく折り合いをつけながら適職を見つけよう
いかがだったでしょうか、今回は双極性Ⅱ型についてのことや就労移行支援事業所について詳しくお話してきました。
双極性Ⅱ型などの精神障害やその他、発達障害を抱えているからといって就職や再就職を諦める必要はありません。
うまく双極性Ⅱ型と折り合いをつけていき、自分をコントロールしつつ就労移行支援制度を利用して就職先を見つけ、仕事を継続できている方はたくさんいらっしゃいます。
個人や家族単位ではなかなかサポートも難しい双極性Ⅱ型ですが、経験豊富なスタッフがたくさんいる就労移行支援事業所であれば一人一人にあったプランを考え一緒に対策してくれるでしょう。