知的障害とは、知的機能と適応機能の低下が18歳までに現れるものをいいます。知的障害は、その障害の程度に応じて軽度から最重度まで4段階に分類されます。
知的障害があると、就業能力に欠けるため一般企業への就職はできないと考えられがちですが、軽度と中等度の知的障害者の中には大手企業や公的機関に就職し、自分の能力を発揮している事例もたくさんあります。
ここでは、知的障害についての基本的な知識から、知的障害と発達障害の違いを解説するとともに、知的障害があるけれど一般企業への就職を希望する方のために、仕事探しや就職・転職で利用できる「就労移行支援制度」について詳しく解説します。
この就労移行支援は非常に知的障害を持つ方の就職の大きな手助けとなりますし、実際に成功事例もたくさんあります。知的障害のある方で仕事を探したり、一般企業への就職を目指す人はぜひ参考にしてみて下さい。
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チャレンジド・アソウ 新大阪事業所 管理者
サービス管理責任者
監修:池田 倫太郎
株式会社チャレンジド・アソウ
立ち上げの中心メンバー。
就労移行支援事業、就労定着支援事業、
特例子会社の運営を行う。
知的障害(精神遅滞)とは?障害の定義と診断基準
知的障害とは、精神医学では「精神遅滞」とも呼ばれる知的発達の障害です。
精神遅滞とは、知覚、運動、言語、生活上の社会的能力などのさまざまな領域に発達の遅れが見られる状態のことで、厚生労働省では知的障害(精神遅滞)を次のように定義しています。
知的障害(精神遅滞)の定義
- 全般的な知的機能が同年齢の子どもと比べて明らかに遅滞している
- 生活上、様々な面で適応機能の明らかな制限がある
- 18歳未満に生じたものである
知的障害(精神遅滞)の診断に際して
知的障害の医学的な診断は上記の3つの要件に応じてなされますが、障害の程度が軽いほどその診断も困難で、知的障害の程度によっては先に合併症に気づくことで知的障害(精神遅滞)だと判明するというケースもあります。
また、知的障害だと診断する上で、上記の症状の評価の他に、原因疾患の有無も確認します。
知的障害の原因として知られているものとしては、以下のような疾患が挙げられます。
- 染色体異常
- 神経皮膚症候群
- 先天代謝異常症
- 胎児期の感染症(先天性風疹症候群など)
- 中枢神経感染症(細菌性髄膜炎など)
- 脳奇形
- てんかんなどの発作性疾患
知的障害の原因として知られている疾患は病理的要因に分類されます。
上記のように、知的障害の原因疾患は多岐にわたるため、どの検査をどこまで行うのかは、どのような症状が出ているのかによって決められます。
知的障害の発症原因と遺伝との関係
知的障害が起こる原因は、上記でご紹介した病理的要因の他に、環境的要因と生理的要因に大別されます。各知的障害の発症原因について簡単に概要をご紹介します。
知的障害の発症原因3つの大別
病理的要因
先天性代謝異常(フェニルケトン尿症やガラクトース血症など)、染色体異常(ダウン症候群など)、脳形成異常症、神経皮膚症候群などがあります。
環境的要因
周産期感染症(風疹など)、妊娠高血圧症、胎児性アルコール症候群、分娩時の脳損傷、新生児仮死などがあげられます。
生理的要因
とくに脳の病気や遺伝的な要因はなく、知能検査を行った結果、IQ70未満だったという場合は、生理的要因に分類されます。
知的障害は遺伝する?
上記で、知的障害の原因(病理的要因)として先天性の疾患や染色体異常の疾患などがあったので、知的障害は遺伝する障害なのではないかと思われた方もいらっしゃるかもしれません。
たしかに、知的障害の病理的要因のうち、フェニルケトン尿症は、親から異常遺伝子を受け継いで起こるという特徴をもつ遺伝病の1つです。
しかし、フェニルケトン尿症は劣勢遺伝病なので、遺伝するのは子どもたち(兄弟姉妹)だけに限られ、その次の世代にまで遺伝することはほとんどありません。
また、同じく病理的要因のうち、染色体異常によって起こるダウン症は、染色体の数が多いために起こるもので、親から子どもに遺伝する障害ではありません。
このように遺伝のメカニズムは非常に複雑です。可能性として、親が知的障害の場合は子どもに遺伝するリスクはありますが、必ずしも子どもが知的障害を発症するとは限りません。
知的障害と発達障害の違い
発達障害とは、自閉症スペクトラム、ADHD(注意欠如多動性障害)、LD(学習障害)の3障害の総称です。
知的障害の場合は、知的機能の発達水準が全般的に低いために社会性に困難が生じるものですが、一方、発達障害の多くは知的障害を伴わず、生活上のコミュニケ―ション能力や行動面、学習能力など、ある特定の領域に困難が生じるものです。
これら発達障害の発症メカニズムはまだ明確にはわかっていませんが、上記のように様々な特徴が現れるのは、脳の認知機能の偏りが原因と考えられています。
認知機能とは、目や耳から入ってきた情報を脳で記憶と照らし合わせ、どのように対処すべきかを判断し、言葉や文字、行動として表出するまでの一連の処理能力を指します。
この認知機能のうち、社会性や生活上のコミュニケーションに関わる機能に偏りがあれば「自閉症スペクトラム」と診断し、行動に関する機能に偏りがあればADHDと診断されます。
また、全般的に機能低下が認められる場合は知的障害と診断されることになる、というように、実際には知的障害と発達障害との違いは明確に分けられるものではありません。
自閉症と重い知的障害は併存しやすい
一般的に、典型的な自閉症と重い知的障害は併存しやすく、軽度の知的障害とADHDも併存しやすいとされています。
このように発達障害と知的障害は相互に関わっており、また、年齢とともに現れる特性が異なることがあるため、そのときの症状に応じて診断名が変わる場合さえあるのです。
たとえば、子どものころは多動が目立ったためにADHDと診断されていたのが、大人になってから社会性や生活上のコミュ二ケーション力の問題がより顕著になり、自閉症スペクトラムと診断名が変わったというケースもあります。
こうした事例から、知的障害か発達障害かと障害の違いを明確にするのではなく、自分にはどのような症状があって、どうすれば自分らしく生きられるかを考えることも大切だと言えるでしょう。
なお、知的障害の症状は、個人ごとに異なるため、必要な支援も異なってきます。そのため、実際に必要な援助の様式と強さによって知的障害(精神遅滞)は分けられるべきだとも考えられ、医学的な知的障害の診断基準と、福祉的な知的障害(精神遅滞)の捉え方に違いを設ける動きも進んでいます。
以下では、知的障害の方が受けられる支援制度のうち、仕事探しや就職・転職で利用できる就労移行支援について詳しくご紹介します。
仕事探しや就職活動で利用できる「就労移行支援」制度
知的障害のある人は、障害者手帳(療育手帳)を取得し、「障害者雇用率制度」を利用して就職する道もあります。
しかし、障害者雇用枠を設けている企業・会社は限られます。
さらに職種が少ないことや、一般枠より賃金が安い、いつまでも「お客さま扱い」をされる、やりがいのある仕事をさせてもらえないなどのデメリットもあるようです。
そのため、知的障害のある方も一般枠での就職を希望する人が多いようです。
障害者雇用率制度
障害者雇用促進法では、公的機関や民間企業に対し、一定の割合で障害者を雇用することを義務付けています。これを「法定雇用率」といい、2018年から下記のように改正されました。
- 民間企業……全従業員の2.2%
- 国・公的団体……全職員の2.5%
- 都道府県等の教育委員会……同2.4%
さらに2021年からはそれぞれ0.1%引き上げられることになっており、年々、知的障害のある方が一般企業へ就職出来る割合が増えています。
ここでは、中等度から軽度の知的障害があり、一般企業への就職を希望する人を対象に、「就労移行支援」制度の利用の仕方について説明しますので参考にしてください。
就労移行支援制度について
就労移行支援制度は障害者総合支援法に基づき、障害のある人が地域で安心して生活できる社会を目指して設けられた制度です。
就職に際して必要な知識やスキルを高めるためのサポートを行い、就職した後も職場に定着するまで面談や相談の機会を設け、フォローアップするのが特徴で、知的障害のある方もこの就労移行支援制度を利用することができます。
そして就労移行支援制度をもとに作られている施設が就労移行支援制度。
この就労移行支援事業所を利用することは知的障害を持つ方が就職するのに非常に多くのメリットがあります。
就労移行支援事業所とは
知的障害の方が就労移行支援サービスを受ける場合、各地に設置された就労移行支援事業所に通って受けることになります。就労移行支援事業所は福祉法人やNPO法人、民間企業によって運営されており、現在全国に3,400か所以上あります。
自分の住所地以外のエリアにある就労移行支援事業所を利用することも可能。
サービス内容やカリキュラムは就労移行支援事業所によって異なるので、知的障害の就職実績があるかや自分に必要なスキルを習得できるかなどをもとに就労移行支援事業所を選ぶようにしましょう。
就労移行支援事業所は市区町村のホームページやwebサイトで検索などして調べることができます。
就労移行支援制度利用対象者
就労移行支援制度は、次の3つの要件を満たす人を対象としています。
- 18歳以上65歳までの人
- 身体障害者、知的障害者、精神障害者、発達障害者、難病のある人
- 一般企業への求職希望者、および就労可能と見込まれる人
なお、障害者手帳を持っていなくても、医師の診断書や意見書があれば利用対象者となります。また、18際未満の場合でも必要な条件を満たせば就労移行支援制度を利用して就職を目指すことができます。
就労移行支援制度の利用期間
利用開始から2年で就職できることを目指しているため、利用期間は2年が標準です。就職後の定着支援は原則6か月間です。
就労移行支援制度の利用料金
厚生労働省によって就労移行支援制度の利用料金が定められており、市区町村が9割を負担し、1割を利用者が就労移行支援事業所へ支払います。
利用者の負担額は年収や利用日数によって異なりますが、下記のように月額の上限額が決められているので、ひと月に利用したサービス料に関わらず、それ以上の負担は発生しません。
世帯収入状況 | 負担上限額/月 |
---|---|
生活保護受給世帯 | 0円 |
市町村民税非課税世帯 ※1 | 0円 |
市町村民税課税世帯 ※2 | 9,300円 |
上位所得者やグループホーム利用者等 | 37,200円 |
※1:年収おおむね300万円未満、 ※2:年収おおむね600万未満
就労移行支援事業所で受けられる仕事探し・就職サポートとは
就労移行支援事業所では、まず利用者と支援スタッフが面談を行います。
知的障害の症状が一人ひとり異なるように、就労移行支援事業所利用者が支援を受ける目的や課題も一人ひとり異なるため、面談を通してその人の課題を整理していきます。
面談の中で些細なことでも相談することで利用者の不安を軽減しながら進められ、次のようなステップを踏んで知的障害の方の就労、定着へと就労移行支援事業所ではつなげていきます。
1.個別支援計画書の作成
利用者の特性や抱えている不安、仕事に対する希望や目標など、面談を通して得た情報をもとに、就職に向けた「個別支援計画書」を就労移行支援事業所スタッフと一緒に作成します。
この計画書に、本人が障害者であることを確認できる書類を添付して、市区町村の福祉課で「受給者証」を申請します。
受給者証の申請は利用者本人が行うことになっていますが、本人が希望すれば就労移行支援事業所のスタッフが代行してもよく、委任状も必要ありません。
ただし、申請後に本人が福祉課に出向き、調査員による聞き取り調査を受ける必要があります。本人ひとりでは困難な場合は保護者か就労移行支援事業所の支援スタッフが同行します。
2.就労移行支援事業所での職業訓練実施
受給者証は約1か月後に本人あてに郵送されます。
それを就労移行支援事業所に持参し、就労移行支援事業所との利用契約を結びます。その後、個別支援計画に沿って就労移行支援事業所でトレーニングを開始します。
最初は体調に合わせて週3日程度から始める場合もありますが、最終的には一般企業に通勤するときと同じように週5日就労移行支援事業所に通える生活リズムができるようになることを目指します。
就労移行支援事業所でのトレーニングの内容は、「一般教養」「ビジネスマナーの基本」「パソコンスキル」の3つをベースに、事業所ごとに特色のあるカリキュラムが組まれています。
単に就職に必要なスキルだけでなく、社会人として最低限必要なマナーや知識を習得できる点がハローワークの職業訓練所と就労移行支援事業所におけるサポート範囲の違いといえます。
知的障害のある人は、臨機応変に対応することが苦手で、手順が複雑な作業も困難ですが、マニュアル通りにできる軽作業は得意でていねいに仕上げることが可能です。
その知的障害の特性を就職に活かすために、このサイトを運営する就労移行支援事業所であるチャレンジド・アソウではカリキュラムに下記のような実務実習(しごトレ)を取り入れています。
しごトレの実習内容(チャレンジド・アソウ福岡本社) | |
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スタンダード | 封入封緘、ファイリング、電卓、データ入力 など |
エキスパート | 名刺データ入力、データ照合、宛名ラベル作成、アンケート集計 など |
バックヤード | ピッキング、製本、棚卸し、バーコードチェック など |
3.職場体験実習(インターンシップ)
就労移行支援事業所と連携している企業を訪問し、実際に職場で仕事を行う職業体験が実施されています。
職業体験の期間1週間から1か月です。職場の社員と一緒に働くことで就労移行支援事業所とは違う緊張感や厳しさを体得することができます。
また、職場で就労移行支援で学んだビジネスマナーや知識を実践することで、就職後の仕事もスムーズにできるよう訓練する場でもあります。
職業体験実習は、自分の得意・不得意を雇用前に職場で実際に認識できるので、就活で失敗することも少なくなります。
4.就業・就労支援
就労移行支援事業所でのトレーニングやインターンシップを通して本人の適性を見極め、就職活動を開始します。
就労移行支援事業所は採用情報や求人募集を管理するハローワークや障害者職業センターなどと連携して本人に合った雇用先・仕事を探し、応募用紙の書き方や面接の受け方も指導します。
就労移行支援事業所のスタッフが面接にサポートに必要であれば同行することも可能です。
5.採用後の定着支援
せっかく正社員や派遣社員として就職できても新しい環境になじめず、職場でトラブルを起こす人がいます。それを未然に防ぐために、就労移行支援事業所スタッフが定期的に面談や電話相談などでしっかりフォローします。
就職後も継続的に、職場の上司や同僚に対しても合理的配慮(負担にならない範囲で障害者に配慮すること)をお願いするなど、本人と職場の間に就労移行支援事業所が入って支援を続けます。
また通院による遅刻・早退・欠勤などもうまく職場や上司とコミュニケーションが図れていないとトラブルになることもあります。
そうならないためにも就労移行支援事業所スタッフが間に入って理解してもらえる様に調整したりすることもあります。
仕事探しや就職対策で就労移行支援事業所が利用される理由
知的障害者をはじめ、障害がある方が仕事を探す場合の方法としては、ハローワーク(公共職業安定所)や転職サイトなとがあります。
しかし、多くの障害がある方は就労移行支援事業所を利用して希望の仕事を見つけて就職を果たしています。
やはり、障害者雇用を積極的に行っている企業は増加しているものの多くはなく、雇用する実績もなければノウハウもない職場も多いです。
障害者雇用を行っても職場で問題が発生してしまっては企業としても就労移行支援へ協力することに前向きになれません。
この場合、就労移行支援事業所が障害者をしっかりとサポートしてくれるのは企業にとっても有難いことなのです。
また、就労移行支援事業所では、就職して働くために必要なビジネスマナーやスキルの習得を訓練しているのが特徴。
ただの仕事探しではなく、就職前後のサポートしっかりしているのが就労移行支援事業所の強みでもあります。
就労移行支援事業所は多くの方が無料で利用することが可能です。
ハローワークも転職サイトも無料で利用できますが、どれも無料なら手厚いサポートが受けられる就労移行支援事業所を利用するに越したことはないですよね。
就労移行支援事業所を利用する障害者は働く意識が高く仕事も長く続く傾向があり、雇用主である企業からの評価も高いです。
こうした理由から知的障害者をはじめ多くの障害ある方が就労移行支援事業所を利用して最適な仕事を探し、就職を実現しています。
就労移行支援事業所の利用で一般就労が可能な職業
詳細者雇用枠が国を挙げて推進されているため、知的障害がある方でも就労移行支援事業所で仕事に必要な訓練を受ければ、民間企業への就職も可能です。
知的障害の方が一般的に働いている職種と言えば下記のような仕事があげられます。
知的障害の方が活躍する職業一覧
- 工場勤務
- 清掃・クリーニング業務
- 棚卸し・バックヤード
- 調理
- 事務
上記のようなルーティンワークや軽作業と言った職業なら、知的障害の方でも無理なく働くことが可能です。
注意点は、知的障害の方は真面目にコツコツと働くタイプの人が多い分、断りきれずにどんどん依頼された仕事量をこなしていくうちに限度を超えてしまい短期間で辞めてしまう人もすくなくありません。
苦労して内定までもらったのにすぐに辞めてしまっては意味がないですよね。
そこで、就労移行支援事業所の定着支援を利用して、悩みや不満などを相談しながら働きやすい環境を一緒になって構築させていくことが重要です。
実際、民間企業からは就労移行支援事業所を利用した障害者は勤務期間が長いと評判なので、積極的に採用してくれるケースも多く見受けられています。
知的障害の子供を持つ保護者の方も将来が不安になっている方もいらっしゃると思いますが、就労移行支援事業所を利用することで少しでも自立を後押しすることが可能です。
まとめ
知的障害や発達障害のある人は、就労移行支援を利用せずに就職できても無断欠勤をしたり、始業時刻になっても席に着かずブラブラしていたりすることがあります。
そのため職場の上司に叱責されたり同僚から睨まれることも多いですが、知的障害の本人は仕事をサボっている認識はなく、「欠勤するときは連絡をすること」「始業時刻の5分前には席に着いて準備をすること」といったルールを理解できていないことが多いです。
就労移行支援サービスでは、知的障害者に対して職場で働くために必要なルールを理解しやすいように実践を交えて説明するため、就職してからトラブルを起こしにくくなります。
また、就職後も就労移行支援事業所のスタッフが継続して仕事が続けられるようフォローを行うので、安心してキャリアを形成していくことが可能です。
知的障害をもち、一般就労を目指す方は、就労移行支援事業所の利用もぜひご検討ください。