摂食障害とは、心理的な問題が背景となり食行動に異常をきたしてしまう疾患のことです。
一般的に「拒食症」や「過食症」という呼び方で知られている摂食障害ですが、具体的にどのような症状や問題が見られるのでしょうか。
ここでは、摂食障害の種類や原因、摂食障害の方が受けられる治療や支援などをまとめて解説していきます。
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チャレンジド・アソウ 新大阪事業所 管理者
サービス管理責任者
監修:池田 倫太郎
株式会社チャレンジド・アソウ
立ち上げの中心メンバー。
就労移行支援事業、就労定着支援事業、
特例子会社の運営を行う。
摂食障害とは?
摂食障害とは、異常な食行動によって日常生活が困難になる疾患のことです。
摂食障害は社会的・心理的な要因が原因となっており、主に10代~20代の女性に多い病気とされています。
現れる症状は個人差がありますが、基本的には極端な食事制限を自らに課してしまう「拒食症」や過剰に食事をしてしまう「過食症」、そしてその他の症状の3種類に分けられます。
いずれも背景には精神的な問題があり、薬を飲めば改善するというような単純な病気ではないのが摂食障害。
また摂食障害は単なる食行動の異常というだけでは済まず、急激な体重の変化や嘔吐による身体へのダメージ、そして別の精神疾患の併発など様々な影響を及ぼします。
自傷行為や自殺といったケースもあり、精神疾患の中でも死亡率が高いのが特徴です。
まずは摂食障害には具体的にどのような種類があるのか、そしてそれぞれの症状について見ていきましょう。
摂食障害の種類と症状
アメリカ精神医学会による「DSM-5」(精神疾患の診断・統計マニュアル第5版)の中で、摂食障害の種類は主に以下の3種類に分けられています。
- 拒食症(神経性やせ症)
- 過食症(神経性過食症・過食性障害)
- その他(異食症・反芻症・回避/制限性食物摂取症)
ここでは、拒食症(神経性やせ症)と過食症(神経性過食症・過食性障害)を中心に、それぞれの症状を解説していきます。
拒食症(神経性やせ症)
拒食症は正式な診断名を「神経性やせ症」といい、太ることへの強い恐怖や、極端なやせ願望から発症することが多い疾患です。
患者の9割が女性と言われており、10代を中心に過度なダイエットなどをきっかけとして発症しています。
拒食症患者の多くは、すでに平均よりも痩せている状態であるにもかかわらず、「自分は太っている」と考えてしまうのが特徴。
体型や体重の変化に対して過敏になり、一日中そのことしか考えられないような状態に陥ることで日常生活にも支障をきたします。
拒食症の中でも食行動のタイプによって更に2種類の分類があり、1つは単純に食事をとらない・食べることを拒否する「制限型」です。
そしてもう1つは過食とも言える量の食事をとったあとで、自発的に嘔吐をしたり下剤を大量に使用したりして食べた分を排出する「過食・排出型」で、こちらの方がより身体的・精神的な負担が大きく危険とされています。
拒食状態が続くことで栄養失調や内蔵の障害など二次的な問題が起き、最悪の場合は死に至る可能性も。
しかし当の本人はそういった危機意識を持っていないことが多いのも特徴です。
BMI値が18.5未満の場合は低体重となりますので、一度自身のBMI値を計算してみてくださいね。
BMI値は「体重(kg)÷身長(m)の2乗」で求めることができます。
過食症(神経性過食症・過食性障害)
過食症は正式な診断名を「神経性過食症」といい、食欲をコントロールできずに大量の食事をとってしまう疾患です。
こちらも患者の9割が女性と言われており、20代を中心にストレスなどをきっかけとして発症しています。
過食症の場合は、食事に対する衝動を抑えることができず、満腹状態であっても食べることを止められないのが特徴。
また食後に強い自己嫌悪を感じて自発的に嘔吐や利尿を繰り返すといった代償行動も見られます。
過食症についても、上記のような過食と排泄を繰り返すタイプと、過食のみを繰り返すタイプに更に分類されます。
過食のみを繰り返すタイプの患者は平均体重を上回っていることが多く、肥満などの問題も考えなくてはいけません。
中には過度なダイエット(拒食症)の反動で過食症に移行してしまうケースもあり、急激な体重の変化や繰り返される嘔吐・下痢による身体への影響は深刻なものとなります。
ストレス発散で食べ過ぎてしまうという経験は珍しくありませんが、こういった衝動が数カ月単位で続く場合は過食症の可能性があるので注意が必要です。
その他
その他の摂食障害として、異食症や反芻症、回避/制限性食物摂取症などがあります。
異食症は、例えば粘土やクレヨン、紙に木炭などといった食用ではない製品を摂取してしまう疾患です。
基本的には体に害の無いものを食べますが、便秘や鉛中毒といった合併症を引き起こす可能性があるので注意。
ちなみに、子どもが好奇心から口に含んでしまうことがありますが、これは発達上正常とみなされます。
反芻症は、一度食べたものを吐き戻してまた飲み込むといった行為を繰り返す疾患です。
生後3ヵ月~12か月の男児に起こりやすく、基本的には成長とともに自然と症状が出なくなっていきます。
まれに大人が反芻症にかかることもあり、重症化すると栄養失調などを引き起こす可能性があります。
回避/制限性食物摂取症は食事量がごく少量であったり、特定の食物の摂取を避けたりする疾患です。
サプリなどの栄養補助食品に頼るなど過度な食事制限を行うことで、低体重や栄養不足になりがちです。
回避/制限性食物摂取症の場合はどちらかというと「偏食」であり、体重増加に対する恐怖などからくる疾患ではないのが拒食症との違いとなります。
摂食障害の原因
摂食障害は主に精神的な問題によって発症するもので、体型に対する世の中の風潮やストレス、また幼少期からの性格や考え方などが原因とされています。
様々な原因が絡み合って深刻化していくことも多い病気ですから、きちんと原因を洗い出して1つずつ改善していくことが大切です。
摂食障害の原因として挙げられるものを社会的・心理的なものに分類して見ていきましょう。
社会的要因
世間一般の認識として「痩せていることが美しい」という風潮は昔からあります。
ダイエットによって新しい人生を手に入れた女性や、様々な方法を試しながら目標体重に向けて努力する女性のストーリーはテレビや雑誌などのメディアで美談として取り上げられがちです。
近年は「○○ダイエット」という形で非常に多くのダイエットが登場し、ダイエットそのものが流行しているかのような印象を与えます。
痩せていることが正しいという社会的背景から、太っている自分に対して嫌悪などの感情を持ち摂食障害を発症してしまうのです。
心理的要因
自身を構成する性格や考え方も摂食障害に大きく影響すると言われています。
中でも以下のような性格を持っている場合は摂食障害につながるストレスを抱えやすく、深刻化する可能性があります。
- 自尊心が低く、誰かに認められたいという気持ちが強い
- 自分自身に対して完璧主義である
- 周りの目が気になり、思うように行動できない
- 自分で何かを判断することが苦手
また家庭環境の問題や対人関係のトラブル、更には遺伝子などによって摂食障害を発症するケースも。
上に挙げたものは決して特殊な性格ということではないので、摂食障害は誰もが発症する可能性を持っているということになります。
性格や考え方は幼少期の影響が強く、すぐに変えられるものではありません。
しかし一度摂食障害を発症すると治るまでに時間がかかるため、自分なりのストレス発散方法を見つけて摂食障害への発展を防ぐことが大切です。
摂食障害の二次障害
摂食障害は単なる食行動の異常というだけではなく、身体的・精神的な負担から別の病気を併発する場合があります。
どのような二次的障害が考えられるのか、1つずつ詳しく見ていきましょう。
嘔吐による影響
嘔吐することで胃酸が逆流し、胸やけや出血を伴ったり逆流性食道炎を発症したりすることがあります。
また何度も嘔吐を繰り返すと体内のバランスが崩れてしまい、腎臓などの内臓器官に大きな負担がかかります。
不整脈によって突然死する場合もあるため、むやみに嘔吐を繰り返すのは危険です。
更に胃酸は歯にも悪影響を及ぼします。
強い酸性の成分が歯に触れることで歯のエナメル質が溶けてしまい、全ての歯が入れ歯になることもあるのです。
栄養失調による障害
拒食症の場合や食事を嘔吐して排出してしまうタイプの過食症の場合、十分な栄養が摂取できずに栄養失調の状態に陥る可能性があります。
体内の栄養が不足することで筋力が低下したりちょっとしたことで疲れやすくなったりします。
また低血圧や低体温が続いて常に気怠さを感じたり、便秘や不眠など日常生活に支障をきたすような症状が次々と現れたりするため、ますますストレスがかかり悪循環が生まれるのです。
別の精神疾患の併発
摂食障害で体内の栄養バランスが崩れると、集中力の低下や精神状態の不安定さが目立つようになります。
その結果、アルコールや煙草などに依存したり、自傷行為や自殺を図ったりするといった衝動的な行動に走ってしまうことも。
更に摂食障害自体が精神的な要因によるものであることから、他の精神疾患を併発している場合も多いと言われています。
摂食障害と併存する確率が高い病気として「うつ病」「不安障害」「双極性障害」「強迫性障害」「パーソナリティ障害」などが挙げられます。
このような精神疾患が併存していると、体重の変化に対する恐怖や不安がより強くなりやすいようです。
摂食障害が改善することで併存する精神疾患も回復することが多いですが、回復しない場合は個別に治療していく必要があります。
摂食障害の治療方法
摂食障害は内科や心療内科、精神科での治療が基本となります。
「もしかして摂食障害かも?」と感じたら、まずは内科で相談すると良いでしょう。
その後、心療内科や精神科など必要に応じて適切な科を紹介してもらってから受診するのがおすすめです。
入院するかどうかは状況によって異なりますが、体重が標準の2割以上下回っている場合などは入院となることが多いです。
栄養が不足した状態では正常な判断が行えないため、まずは点滴などを使って少しずつ体重を元に戻し、精神状態が安定してからの治療となります。
摂食障害の治療方法には以下のようなものがあります。
- 認知行動療法(CBT)
- 薬物療法
上記の中でも中心となるのが認知行動療法で、これはカウンセリングを行いながら体重に対する偏った考え方を修正していく治療です。
規則正しい食生活を送ることで異常行動をコントロールできるように学習し、日常の中で実践していくのが基本の流れとなっています。
薬物療法については摂食障害そのものへの薬ではなく、併存する抑うつや不安などを改善するための薬です。
薬だけで摂食障害が治ることはなく、あくまでも補助的な役割と言えます。
摂食障害を持つ方が受けられる支援とは
摂食障害を持つ方が安心して治療に専念できるよう、通院費などの金銭的負担を軽減できる制度や、社会復帰の手助けをする自助グループなどが多く存在しています。
「自分だけではない」という精神的な安定は症状改善への一歩になりますので、積極的に活用してみてくださいね。
医療支援
現在、宮城県・千葉県・静岡県・福岡県の4か所に摂食障害治療支援センターが開設されています。
メールや電話での相談を無料で受け付けており、生活エリアの中で適した医療機関を紹介してくれます。
いきなり病院へ行くことに抵抗があるという方はこちらを利用しても良いでしょう。
また摂食障害を持つ方が受けられる医療支援には以下のようなものがあります。
受けられる支援 | 内容 |
---|---|
自立支援医療 (精神病院) |
通院治療にかかる治療費や薬代の負担が原則1割となる。 |
高額療養費制度 | 月々の医療費が一定額を超えた際に、超えた分が払い戻される。 |
精神障害者保健福祉手帳 | 税金の控除や公共料金の免除、福祉サービスが受けられる。 |
障害者総合支援法 | 一定の条件を満たす場合に福祉サービスが受けられる。 |
精神障害者保健福祉手帳は誰でも取得できるわけではなく、初めて病院にかかった日から6カ月以上の長期にわたり日常生活や社会生活に支障がある場合に取得可能となっています。
金銭的負担を大幅に軽減できるため、長期の治療に不安がある方はぜひ活用してくださいね。
就労支援
上記のような医療支援の他、摂食障害の情報を掲載しているWEBサイトや、当事者同士で集まってサポートをするような自助グループの利用もおすすめです。
こうした自助グループは「就労継続支援B型」と呼ばれ、摂食障害をはじめとする様々な障害や難病を持った方、また高齢により雇用が難しい方が比較的簡単な作業を行うことのできるサービスです。
物作りやパソコンワークなどを短時間から行い、徐々に社会復帰を目指していくのが目標。
長期間の治療を経て、いきなり社会へ戻るのは怖いという方が多く利用しており、当事者同士の交流ができることからコミュニケーション能力を取り戻す場所としてもおすすめです。
まとめ
- 食行動によって拒食症や過食症などの分類がある
- 社会的・心理的なストレスが原因となっている
- 医療支援や就労支援の利用が可能
摂食障害はストレスなどが原因となる精神疾患であり、性格なども影響することから治療には時間がかかる場合があります。
痩せたいと感じることは問題ありませんが、ダイエットに没頭し生活に支障が出るようなやり方はリスクが大きいでしょう。
少しでも摂食障害が疑われる場合は医療機関へ相談し、適切な治療を受けることが大切です。