障害や難病を抱えながらも、一般企業への就職を目指す方をサポートする機関が「就労移行支援事業所」です。
この記事では、就労移行支援事業所の概要と通所のメリット・デメリットを解説。
メリットだけでなくデメリットの部分についてもきちんと理解し、その上で通所を検討できるよう備えましょう。
就労移行支援とは?
就労移行支援とは、「障害者総合支援法」における自立支援給付の1つとして用意されている福祉サービスです。
障害や難病を抱えている方で、かつ一般企業への就職を希望する方のサポートを行うための制度で、現在全国に3,400ヶ所以上の就労移行支援事業所があります。
まずは、就労移行支援事業所の対象となる方や、具体的なサービス内容について詳しく見ていきましょう。
サービス利用の対象となる方
就労移行支援事業所へ通所するには、以下の要件を全て満たす必要があります。
- 18歳以上65歳未満の方
- 身体障害・発達障害・知的障害・精神障害・指定難病のある方(※医師の診断書・通院証明書があれば障害者手帳を持っていなくても利用可能となるケースがあります)
- 一般企業への就労または開業を希望する方で、就労が可能と見込まれる方
以下は、利用対象となる障害・難病の一例です。
身体障害 | 肢体不自由・視覚障害・聴覚障害・内部障害・免疫機能障害 など |
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発達障害・知的障害 | アスペルガー症候群・ADHD・学習障害・精神遅滞 など |
精神障害 | うつ病・統合失調症・不安障害・パニック障害・自律神経失調症・対人恐怖症 など |
指定難病 | 筋萎縮性側索硬化症・パーキンソン病・大脳皮質基底核変性症・膠様滴状角膜ジストロフィー など |
就労移行支援の具体的なサービス内容
就労移行支援事業所で受けられる主なサービス内容は以下の通りです。
- 就職したい職業に対応する職業訓練
- 履歴書の添削・模擬面接などの就職活動サポート
- 就職・転職に関する相談
- 障害の特性に合わせた業種の提案やアドバイス
- 職場実習の環境提供
- 就職後の定着支援 など
このように、就職に向けた職業訓練や相談対応をはじめ、就職後の定着支援なども行っているのが就労移行支援事業所の特徴です。
「就職しても続けられるか分からない」「職場に馴染めるか不安がある」といった悩みを抱えている方は、一度就労移行支援事業所の利用を検討してみると良いでしょう。
就労継続支援との違い
就労移行支援と混同されやすいサービスとして「就労継続支援」というものがあります。
就労継続支援も福祉サービスの1つで、こちらは現状で一般企業への就業が難しい方のために、軽作業などの仕事および仕事環境を提供する事業所です。
雇用契約の有無や年齢制限などの条件によって、就労継続支援A型と就労継続支援B型に分けられます。
就労移行支援事業所と就労継続支援事業所(A型・B型)の主なサービスの違いは以下の通りです。
就労移行支援 | 就労継続支援(A型) | 就労継続支援(B型) | |
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利用期間 | 原則2年 | 期間の定めなし | 期間の定めなし |
目的 | 就職するために必要なスキルを身につける | 働く場所を提供する | 働く場所を提供する |
対象者 | 一般企業へ就職することを希望する方 | 現時点で一般企業への就職が困難、または不安な方 | 現時点で一般企業への就職が困難、または不安な方 |
雇用契約 | なし | あり | なし |
賃金 | 一部事業所を除きなし | あり/平均月収約7万円 | あり/平均月収約1,5万円 |
年齢制限 | 原則18歳~65歳未満 | 原則18歳~65歳未満 | なし |
就労移行支援を利用するメリット
続いて、就労移行支援事業所を利用するメリットについて詳しく見ていきましょう。
体調・生活リズムの安定化
就労移行支援事業所へ定期的に通うことで、就職したときと同じような生活リズムを身に付けられます。
生活リズムが一定になれば、体調や精神面も安定してくるため、仕事のパフォーマンスも向上するでしょう。
また“安定的に事業所へ通所できていた”という点は就職活動の際のアピールポイントにもなります。
自己管理能力が身に付く
就労移行支援事業所のプログラムを進めていく中で、自分の強み・弱点や障害のデメリットに対する理解を深められます。
自己管理能力を身に付け、「どんな配慮が必要か」「どんな工夫をすれば業務をこなせるか」といった点を職場の人に正しく説明できれば、希望する配慮を適切に受けられるでしょう。
協調性・コミュニケーション能力の形成
一般企業で働く場合、協調性やコミュニケーション能力は不可欠です。
就労移行支援事業所であれば、周囲の人も障害や難病を抱えた人ばかりなので、集団生活の第一歩としては比較的ハードルが低く慣れやすい環境だと言えるでしょう。
障害に理解のある人からサポートを受けられる
就労移行支援事業所では、定着支援という形で就職後の悩み相談などにも対応しています。
自分自身や障害のことをよく知るスタッフが引き続きサポートをしてくれるというのは、利用者にとって大きなメリットと言えるでしょう。
また事業所に通所する中で、同じ障害や悩みを抱える仲間と出会える可能性もあります。
デメリット・注意点もチェック
就労移行支援事業所を利用する際には、メリットだけでなくデメリット・注意点も理解しておく必要があります。
ここからは、就労移行支援の利用におけるデメリット・注意点について詳しく見ていきましょう。
デメリット①就労移行支援の利用中は収入がない
就労移行支援事業所に通所している期間は、原則としてアルバイトが認められない点が1つ目のデメリットです。
通所中は無収入になるというのは大きなデメリットであるため、その間の生計について事前に考えておく必要があるでしょう。
なお市区町村の判断次第では、ごく稀に就労移行支援事業所に通いながらのアルバイトが認められるケースもあります。
デメリット②長期間事業所に通わなければならない
2つ目のデメリットは、就労移行支援事業所の利用期間が最長2年間にわたる点です。
とは言え、必ず2年間通わなければならないというわけではなく、人によっては数ヶ月〜半年程度で就職できる場合もあります。
早めの就職を目指したい方は、その旨をスタッフに伝えることで、希望に沿った計画を立ててもらえるため、このデメリットについてはあまり意識しなくても良いでしょう。
また腰を据えてスキルアップしたいという方にとっては、そもそもデメリットに含まれない項目となります。
なお短期間で卒業した場合、必要に応じて再度通所することも可能です。
途中退所や転居、延長を希望する場合の対応は以下の通りです。
利用期間中に通所を中断した場合 | 必要に応じて再度通所することができます。(例:半年の通所で就職が決まったものの、その後退職してしまったので再度支援を受けたい)ただし期間はリセットされず、前回の通所期間を差し引いた期間の通所となります。 |
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転居によって通えなくなった場合 | 転居先エリアの就労移行支援事業所への変更が可能です。全国的に拠点を設置している事業所なら手続きが簡単なため、転居の可能性がある場合は規模の大きい事業所がおすすめ。 |
2年間通っても就職できなかった場合 | 市区町村の審査会で認められれば、最長1年間の延長が可能です。それでも就職できなかった場合は、就労継続支援A型・B型への切り替えが検討されます。 |
デメリット③人によっては利用料金がかかる場合も
就労移行支援事業所の料金は、9割を市区町村が補助金によって賄い、残りの1割を利用者が支払う仕組みです。
世帯収入によっては一部料金の負担が必要となるというデメリットがあるものの、実際には約9割の方が無料でサービスを利用できています。
世帯収入別の利用料金負担額の上限は以下の通りです。
世帯収入状況 | 負担上限額/月 |
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生活保護世帯、市区町村民税非課税世帯(おおむね年収300万円未満) | 0円 |
市区町村民税課税世帯(おおむね年収600万円未満) | 9,300円 |
上記以外 | 32,000円 |
まとめ|メリット・デメリットを踏まえた上で利用を検討しましょう
- 就労移行支援事業所では、スキルアップ・就職活動・就職後の定着に向けた支援が受けられる
- 就労移行支援事業所に通所することで、生活リズム改善や自己管理能力・コミュニケーション能力向上などのメリットが期待できる
- 長期間の通所や料金負担が必要になるといったデメリットもあるものの、必ずしも全ての利用者がデメリットに該当するわけではない
就労移行支援事業所の通所期間中は収入がなくなるというデメリットさえクリアできれば、基本的にはメリットの多いサービスと言えます。
一般企業への就職を実現できれば安定した収入も見込めるので、就職活動がうまく進まなくて困っているという方は、メリット・デメリットを踏まえたうえでぜひ一度利用を検討してみてください。