チャレンジド・アソウ 広島事業所 /
チャレンジド・アソウ 大阪事業所 /
チャレンジド・アソウ 新大阪事業所 管理者
サービス管理責任者
監修:池田 倫太郎
株式会社チャレンジド・アソウ
立ち上げの中心メンバー。
就労移行支援事業、就労定着支援事業、
特例子会社の運営を行う。
障害の一種であるアルコール依存症とは
アルコール依存症とは、お酒を飲む時間や場所、量をコントロールできなくなる病気で、社会生活や会社での仕事に支障をきたす、もしくは生活が破綻することもあります。
お酒は一滴も飲まない、という人から大量に飲む人まで、飲酒については人それぞれですが、一般的には飲酒量が増えるに従って、体の健康をはじめ様々な影響や問題が生じてきます。
アルコール依存症はもっとも重篤なもので、成れの果てには本人の心身の健康だけでなく家族や職を失い、末期になると自殺、または事故を起こし他人の命を奪うことすらある病気です。
厚生労働省の2013年の調査によると、日本では、アルコール依存症患者は109万人いると推計されています。
アルコール依存症の原因
アルコールは依存性のある薬物です。お酒を飲む人であれば、誰でもかかる可能性がある病気です。
アルコール依存症になるまで
習慣的に飲酒するようになると、体がアルコールに慣れて耐性がつき、それまでの少量の飲酒では酔った感じがせず満足できなくなり、飲酒量が増えていきます。
その後、2種類の依存、あるいはその両方が生じることでアルコール依存症が形成されていきます。
- 精神的な依存(お酒がないと物足りない、などの精神的欲求)
- 身体的な依存(お酒が切れると身体に不快な反応が出て、それを解消するための飲酒)
特に身体的な依存が強まると、数時間に一度はお酒を飲む「連続飲酒」をするようになり、これはアルコール依存症の特徴的な症状のひとつです。
アルコール依存症の原因
アルコール依存症になる原因としては、「酒に強い」という遺伝的要素があることに加え、様々な環境要因、性格などが考えられています。
「酒に強い・弱い」というと生まれつきのアルコール代謝の良し悪しを思い浮かべるかもしれませんが、実はそれだけではなく、神経細胞の遺伝的な違いや、神経活動の個人差によっても「強い・弱い」の違いがあり、アルコール依存症の危険要因になっていると考えられています。
また、アルコール依存症は、お酒に強くない人でも起きる病気です。ビール1杯でも顔が赤くなるのに依存症になった、という人もいます。
診断基準とセルフチェック
アルコール依存症は、国際疾病分類ICD-10の中で、「精神及び行動の障害」に入ります。診断はこのICD-10と、DSM-5(精神障害の診断と統計マニュアル)によるものがあります。
アルコール依存症の診断基準
ICD-10によるアルコール依存症候群の診断基準は以下のようなものです。
1年間に以下の3つがあてはまる。
1 | 飲酒したいという強烈な欲求、強迫感(渇望) |
---|---|
2 | 飲酒の開始、終了、あるいは飲酒量に関して制御することが困難(抑制喪失) |
3 | 離脱症状 |
4 | 耐性の存在 |
5 | 長い時間飲酒したり、酔いから醒めるのに1日の大部分の時間を消費してしまう、飲酒以外の娯楽を無視する(飲酒中心の生活) |
6 | 精神的または身体的問題が飲酒に酔って持続的また反復的に起こり、悪化していることを知っているにも関わらず飲酒を続ける(負の強化への抵抗) |
DSM-5での「アルコール使用障害」の診断基準は以下です。
1年間に以下の2つがあてはまる。(2-3:軽度、4-5:中等度、6-:重度)
1 | アルコールを最初に思っていたより多量に、あるいは長い時間使用する。 |
---|---|
2 | アルコールを減らすまたはコントロールしようと思っていても成功しない。 |
3 | アルコールを得るため、使用するため、あるいは回復するための時間が長い。 |
4 | 飲酒への強い欲求 |
5 | アルコールの使用により、仕事、学校、家庭での役割を果たせないことがある。 |
6 | アルコールによる社会的、対人関係の問題があるにも関わらず飲酒を続ける。 |
7 | 重要な社会的、仕事上、あるいは余暇の活動が飲酒のために放棄または減少している。 |
8 | 身体的に問題がある状況でもアルコールを使用する。 |
9 | 精神的・身体的問題がアルコールによって起こることがわかっていても飲酒する。 |
10 |
耐性 a 期待した効果を得るために著しく増加した量のアルコールが必要。 b 同じ量のアルコール使用で効果が著しく減弱する。 |
11 |
離脱症状 a アルコールに特有の離脱症状。 b 離脱症状を軽減させるためにアルコールを使用する。 |
アルコール依存症のセルフチェック方法
診断基準とは別に、お酒にどの程度依存しているかを調べるスクリーニングテストというものがいくつかあります。チェックしてみましょう。
CAGE
4つの質問からなる検査です。確度の高い結果が得られています。
1 | あなたは今までに、飲酒を減らさなければいけないと思ったことがありますか? |
---|---|
2 | あなたは今までに、飲酒を批判されて、腹が立ったり苛立ったことがありますか? |
3 | あなたは今までに、飲酒に後ろめたい気持ちや罪悪感を持ったことがありますか? |
4 | あなたは今までに、朝酒や迎え酒を飲んだことがありますか? |
上記のうち、2項目以上あてはまる場合は、アルコール依存症の可能性がある、というものです。
KAST-M、KAST-F(久里浜式アルコール症スクリーニングテスト)
日本の一般人口やアルコール依存症の初回入院患者を対象にした調査結果などから作成されました。
体質差を考慮して、男女別に違う10項目の質問からなります。
(参照:厚生労働省「新久里浜式アルコール症スクリーニングテスト」)
AUDIT
国際的な調査研究に基づいて作成されたもので、人種や性別による差が少ないとされています。10項目の質問からなります。
(参照:厚生労働省「AUDIT 」)
アルコール依存症と障害者手帳
アルコール依存症は、精神障害者保健福祉手帳の交付対象で、窓口で利用手続きをすることで一部公共料金の割引などのサービスを受けられます。
しかし、治療開始から6か月が経過している必要があり、かつ、断酒できていない場合は対象となりません。必要な場合は自治体や主治医に相談してください。
アルコール依存症の人の仕事探しと就労移行支援
アルコール依存症の方が仕事を探す、もしくは再就職するには慎重に進めていく必要があります。
アルコール依存症は治る確率よりも再発率が非常に高く、断酒を続けながら就職スキルを磨き、就職活動を進めなければいけないので一人でコントロールするのはかなりの意思の強さが求められるでしょう。
さらに会社の面接に合格しても、継続して仕事できるようになるには、アルコール依存症を完全に克服するまで辛抱強くアルコールの誘惑に耐えていき、規則正しい生活が定着するまでは我慢強くアルコール依存症と闘わなくてはいけません。
どうしても早期就職、社会復帰をと考えがちですが、就職を考えるまでには断酒後、半年から1年、あるいはそれ以上が必要と言われます。就職のタイミングについては主治医と相談して決めるのがベストです。
そしてある程度社会復帰、仕事復帰の目処がついたのならぜひ利用をおすすめする機関があります。
それが就労移行支援事業所。
就労移行支援事業所などの利用
アルコール依存症の人は就職や就職活動の準備段階として、就労移行支援事業所を利用すると多くのサポートを受けられます。
社会的なブランクが長期に及ぶと、働くということに対してなかなか感覚を取り戻せない人も多くいますが、就労移行支援事業所に通うことでビジネススキルを学びつつ、職場体験や就労の練習場所として活用していけます。
この就労移行支援事業所は就労移行支援制度をもとに作られた民間の機関であり、全国に3,300カ所以上もありみなさんが思っているよりも身近な施設。
アルコール依存症だけでなく、重病を患った方や難病を抱えている方、障害を持つ方も多くが就労移行支援を利用しています。
就労移行支援サービスには、以下のようなものがあります。
対象者 | サービス 内容 |
|
---|---|---|
就労移行 支援事業 |
|
一般就労に向けて就職活動から職場定着のための支援など |
就労継続 支援事業 (A型) |
就労機会の提供を通じ、生産活動にかかる知識及び能力の向上を図ることにより、雇用に基づく就労が可能な人 |
|
就労継続 支援事業 (B型) |
就労移行支援事業等を利用したが雇用に結びつかなかった人や、自分らしく当該事業で働くことを希望する人 |
|
年齢制限 | 利用期限 | |
---|---|---|
就労移行 支援事業 |
65歳未満 | 有り (標準2年間) |
就労継続 支援事業 (A型) |
65歳未満 | 無し |
就労継続 支援事業 (B型) |
無し | 無し |
1)就労移行支援事業所
一般就労を希望する65歳未満の人で、事業所内での作業訓練、職場実習、本人に見合った職場選びなどを通じて就労の見込みがある場合に利用できます。利用期限は2年間で、この2年の間に職業訓練と就職活動を達成する場所です。
2)就労継続支援事業A型
一般企業に就職することが難しい場合に、支援体制の整った職場を提供するものです。事業所との雇用契約を結び、労働基準法が適応されます。
利用を通じて条件が整えば、一般企業での就労に向けた求人の紹介や支援を受けられます。
3)就労継続支援B型
年齢や体力が理由で、雇用契約の元での就労が難しい人などを対象に、雇用契約のない環境で就労の機会を作っている事業所です。雇用関係はないので、体調に応じて通所する人も多くいます。こちらも、通所を通じて条件が整えば、一般企業での就労に向けた求人の紹介や支援を受けられます。
就労移行支援事業所で受けられるサポートとは
就労移行支援制度がどういったものかをわかっていただいたところで、多くのアルコール依存症の方が利用するであろう就労移行支援事業所の中身やサポートについてみていきます。
就労移行支援事業所で受けられる具体的なサポートは以下の4つ
- 就労移行支援事業所スタッフによる就職までのプランニング
- ビジネススキル習得のサポート
- 就労移行支援事業所が間に入っての就職活動支援
- 就職成功後の継続支援
それぞれを詳しくみていきましょう。
就労移行支援事業所スタッフによる就職までのプランニング
まずは就労移行支援事業所のスタッフによる一人一人に合わせた目標設定(目指す就職先)や就職までの期間をカウンセリングにより決めていきます。
アルコール依存症の方は治療と同時並行で就労移行支援事業所の利用をする方が多いので他の障害を持つ方や病気を持つ方よりも就労移行支援事業所の利用は若干長くなるかもしれません。
しかし就労移行支援事業所できちんと就職までのプランニングをしておくことがアルコール依存症を持つ方が会社へ就職し就労継続していくための大事な礎となるのです。
ビジネススキル習得のサポート
目標とする就職先を定めたら、次は就労移行支援事業所でその仕事に必要なビジネススキルを習得していきます。
例えばWordやExcelといった具体的なものから、感情をコントロールする方法習得、病気との付き合い方、就職までの規則正しい生活リズム構築など様々必要となるスキルを就労移行支援では学びます。
就労移行支援事業所が間に入っての就職活動支援
就労移行支援事業所でのトレーニングを通してアルコール依存症克服の見込みが見え、十分にビジネススキルや社会生活スキルが身についたのならば次は就職活動に入っていきます。
就労移行支援事業所では面接対策や履歴書の書き方などもサポートしてくれます。
就労移行支援事業所はハローワークのような仕事を休職者に斡旋する期間ではないので直接仕事や会社を紹介したりしませんが、スムーズに就職活動ができるように色々と計らってくれるはずです。
就職成功後の継続支援サービス
ここからがアルコール依存症の方が難しいところです。
どうしても就職に成功すると気が緩みがちになり、またアルコールに手を出してしまい、アルコール依存症が再発する、なんてことも考えられます。
また就職すると最初はアルコール依存症の方のみならず、不安な気持ちを抱いたり、職場の人間関係構築など多少のストレスも抱えるでしょう。
アルコール依存症の方は鬱なども発症しやすい人もいらっしゃいますので、ストレスコントロールや職場環境の悩みなどを就労移行支援事業所のスタッフに相談し、継続して仕事場に通えるように心がけましょう。
アルコール依存症の人の就職後の注意点
就労移行支援事業所利用などで就職できた!採用された!といってすぐにアルコール依存症の方は安心してはいけません。
繰り返しになりますがアルコール依存症は再発率の非常に高い病気で、依存症の後遺症などを排除し、断酒が完全に安定するまでは3〜5年かかると言われています。
そのため、まずアルコール依存症の人は、
- お酒以外のストレス解消法を身につける
- 何か没頭できる趣味を持つ
- 焦らない、ストレスを溜めない
- アルコール依存症自助会への参加を続ける
ことが重要です。
また、アルコール依存症の家族を持つ方も急かさずに、ストレスの兆候があったら手を差し伸べましょう。
安定した社会復帰のために就労移行支援事業所の活用を
アルコール依存症には、「だらしない」「怖い人」といったネガティブなイメージも存在します。
しかし、「お酒を飲む人であれば誰だってかかる可能性がある」という基本に立ち返り、周囲はアルコール依存症に対する偏見やイメージを修正する必要があります。
また、患者さん自身はこれまでの働き方を振り返り、頑張りすぎていた部分があれば改める必要があるでしょう。
仕事という役割があることは、自尊心の向上や、断酒継続の動機付けとしても重要なことです。
しかしアルコール依存症の方が再飲酒につながるような働き方をしてしまうと、治療が意味をなしません。
そういった意味でもアルコール依存症の方は就労移行支援事業所利用が良いでしょう。
一人だと難しいアルコールに関する自制や就職してからのサポートを期待できるからです。