近年、発達障害の一種として広く知られるようになったADHD(エーディーエイチディー)は「注意欠陥・多動性障害」を略した名称で呼ばれている脳機能障害の一つで、精神発達障害に分類されています。
発達障害は言葉を話したり、聞いた言葉の意味を理解するなど、物の考え方や脳の前頭葉の機能に異常があると考えられ、行動をコントロールさせる働きや注意に関しての機能に偏りが見られる障害です。
このページではADHD(注意欠陥・多動性障害)の特徴や就職や転職などで適職を見つけるために利用できる就労移行支援について詳しくご紹介します。
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チャレンジド・アソウ 新大阪事業所 管理者
サービス管理責任者
監修:池田 倫太郎
株式会社チャレンジド・アソウ
立ち上げの中心メンバー。
就労移行支援事業、就労定着支援事業、
特例子会社の運営を行う。
ADHD(注意欠陥・多動性障害)の特徴が日常生活に及ぼす影響
ADHD(注意欠陥・多動性障害)の特徴として、「不注意」「多動性」「衝動性」の3つの側面があります。
子供の頃から見られるこうしたADHDの特徴は、日常生活の中で悩みとなり、長年にわたり本人を苦しめることになります。
もちろん、ADHDの本人も自分なりに工夫や対策を考えて取り組みますが、なかなか解決に至らず、日常生活に支障が出てしまい困難を抱えていることが多いのです。
ここでは、ADHDの特徴である不注意・多動性・衝動性の3つの面で実際にどのようなことに困っているのか具体的な例を挙げてみましょう。
不注意が主となるADHDの特徴
すぐに気が散って集中できない
ADHDの方は興味のまま目についたもの、思い出した事に対して注目してしまい、集中力を持続することができません。
例えば、待ち合わせや大切な仕事の納期が迫っている時でも、途中で興味を引くものを見つけると注意が逸れ、やりかけのまま放ってしまうことがあり、本来の目的を忘れてしまうことがあります。
また、料理をする際も鍋に火をかけたまま別の事に集中してしまうという事例も数多くあります。
整理整頓・片づけができない
ADHDの方は、必要な物、いらない物、保存しておく物といった整理整頓の判断が苦手なため、物をため込みがちです。周囲から片づけるよう促されても一つの場所に物を押し込む、移動させるといった方法で解決しようとする傾向があります。
ADHDの本人は「このままではいけない」と片づけに取り組むものの、目の前に広がるたくさんの物に気を取られて結局片づけを遂行できないことで困ることがあります。
忘れ物やなくしものが多い
ADHDの方は、学校や職場でも忘れ物が多く、仕事で必ず必要なものを忘れたり同じ物を何度も失くしたりすることがあります。人から物を借りていることを忘れてしまうことでトラブルが起こり、人間関係がこじれたり仕事で問題となってしまうことも少なくありません。
多動性が主となるADHDの特徴
じっとしている事が難しい
ADHDの方は、じっとしている事や黙っていることが苦手で、静かにするように指導されてもおしゃべりをやめられない、座っていられず立ち歩くといった多動が見られることがあります。
育った環境やADHDの症状の度合いにもよりますが、大人になるにつれ過度な多動はある程度落ち着くとされています。
しかし、それでもじっとしていることは苦手で、そわそわしてあたりを見まわす、イライラした気持ちが貧乏ゆすりなどの行動に出てしまうことがあります。
衝動性に関するADHDの特徴
反射的に行動してしまう
衝動性は、興味の対象となるものを見て感じた瞬間に反射的に行動してしまうADHDの特徴の一つです。行動のコントロールができないため、自分の番が来るまで列に並ぶことや、順序ごとに取り組むことが難しく、同じことを繰り返すのが苦手です。
例えば、道路を挟んだ向こうに友達を見つけるとすると、声をかけたいために危険を顧みず飛び出してしまうといった事例も衝動性の一つです。
マルチタスクをこなせない
ADHDの方は、様々なものに目移りして衝動的に複数の作業はじめますが、優先順位が付けられない、集中できないという症状が重なり、結局どの作業も完成させることができないという例もあります。
ADHDの方は、やるべきことをリスト化し、自分のペースで「一つずつ」こなしていくことがカギとなります。
ADHD(注意欠陥・多動性障害)の脳の働き
短期記憶の働き
ADHDは短時間の記憶の保持が難しいとされています。例えば出かける際にカギを忘れて部屋に取りに帰るとします。すると、カギよりもその周りにあるモノへ注意がひかれ別の事を考えてしまい、これから出かけること、カギを忘れて取りに来た事を忘れてしまうのです。
うっかりミスは誰にでも起こり得ますが、ADHDの場合はそれが常に起こる為、社会生活に影響が及ぼされるのです。
脳内物質の分泌の不足
ADHDの人の脳の働きでは脳内の神経伝達物質である「ドーパミン」や「ノルアドレナリン」の働きが不足傾向であることがわかっています。
ドーパミンは、注意力、集中力、モチベーションといった「行動」を起こす際に重要な役割を果たしており、これらの神経伝達物質が十分に分泌されていない場合、脳は分泌に繋がる刺激を求めて過度な飲酒、喫煙、過食、スピード運転、不倫や衝動買いといった不健康かつ危険に繋がる行動を起こしてしまうと考えられています。
ドーパミンを増やすには運動・睡眠が良いとされています。体を動かした後は心拍数や呼吸も大きくなるため興奮状態になりドーパミンが分泌されるのです。
時間感覚の違い
ADHDの子供と、そうでない子供では時間の感覚が違うと言われています。海外の脳神経科学者によれば、子供たちに数秒の時間をカウントする研究を施したところ、ADHDの子供は時間の流れが速く感じているとわかりました。
ADHDの子供にとって1秒の感覚は定型発達の子供に比べて短く感じるため、学校や職場といった時間的な拘束がある場面ではとても長く感じるのです。
拘束時間内の時の流れに退屈さを感じるにつれ、注意が散漫になり、自制心が欠如し「落ち着きがない」と言われる行動に出てしまいます。
自分の障害に適した働き方と就職・転職における適職の見つけ方
仕事でケアレスミスを連発する
ADHDの人はその症状から「ケアレスミスが多い」とされていますが、ミスの頻度が非常に多く「仕事を任せられない」と判断され解雇されるケースが非常に多いです。
同じミスを再度行わないよう本人は多様の努力を重ねますが、注意深くしていた事に関しても細かい部分での見落としがあり、仕事が雑だという評価をされることがあります。
ADHDの人は情報を一時的に保つ「ワーキングメモリー(作業記憶)」が少ないとされているためメモをとることが必要になりますが、書き取ったメモを読み返しても詳細がわからない、整理して書くことが苦手なためにぐちゃぐちゃなメモになってしまい、一つの仕事を遂行することが難しいとされているのです。
こうしたことが積み重なり、ミスを恐れ、焦り、プレッシャーがかかる生活を送ることで心身ともに疲弊してしまい、働く意欲を失って自尊心やモチベーションが低下してしまいます。
適した働き方の見つけ方
ADHDは運転・操縦などの継続的な集中を要する業務、医療現場などミスが直接命に係わる業務、接客などの臨機応変さが必要となる仕事は向いていないとされていますが、症状の程度や性格などから一概には言えません。
苦手なこと、得意なこと、体力面に適した雇用条件など、自分に適した働き方を理解することで長く働き続けられる職に就くことができます。
避けるべきなのは「向いていない」とわかっている業種で「次の職場はうまくいくはずだ」と考え、同じ理由で入退社を繰り返すことです。
適職に就き、働き続けるためには専門医やカウンセラー、就労支援機関といった専門機関に相談しましょう。
就労支援機関の就労移行支援事業所では、自己理解を深めて自分のADHDの特性を見つけ出し対処方法を学ぶことができます。
仕事で必要となるメモの取り方や、ワーキングメモリーを増やす訓練、ビジネススキルや職場でのコミュニケーションの取り方などのトレーニング受けることができます。
ADHDの人が働き続けるには、専門機関での相談相手を持つことと、特性に対する理解と対処法を知っておくことが重要といえます。
就労移行支援とは
就労移行支援とは、障害者総合支援法に規定される障害福祉サービス(自立支援給付)の中の訓練等給付に位置付けられるサービスです。このサービスを提供する事業所のことを就労移行支援事業所と言います。
障害があって一般就労したいけど就職が決まらない方、履歴書の作成や面接、コミュニケーションなどが苦手な方、仕事が長続きしないためキャリアが形成できない方など、就職に困っている方の就職から定着までをサポートしてくるのが就労移行支援です。
就労移行支援と同じ障害福祉サービス(自立支援給付)には、就労継続A型事業所(雇用型)と就労継続B型事業所(非雇用型)があります。
こうした障害福祉サービスの中でも、就労移行支援事業所では、「2年間」という利用期間の中で、一般企業に就職しその後も働き続けられるように就労継続を目指して支援するのが特徴です。
就労移行支援サービスの具体的な内容
ADHDの方が就職を目指すためのトレーニング
ADHD(注意欠陥・多動性障害)の方が就職して働き続けるために必要なスキルをトレーニングで習得し、自己理解や仕事への理解を深め、職場実習を経て、自分のやりたい仕事、できる仕事を厳選していきます。
ADHDの方の就職活動の支援
就職活動をする段階に入ったら、就労移行支援事業所の社員が、履歴書・職務経歴書の添削や、求人票のチェック、面接同行等をADHDの症状に合わせておこなってくれます。
就活を始めてから就職が決まるまでの間ずっと、社員が相談に乗ってくれるため、ADHDの方もプレッシャーや不安をあまり感じることなく就職活動をすることができるでしょう。
働き続けるための就職後の定着支援
就活を終え、無事に就職が決まったからといって就労移行支援のサポートがそこで終わるわけではありません。就労移行支援では就職後もその仕事を続けていけるように仕事への定着をサポートしてくれます。
定着支援では、就労移行支援事業所の社員が、ADHDの方が職場で経験したことや仕事で困っていること等の相談に応じたり、時には企業と相談したりしてくれるため一人で悩むことなく、プレッシャーや不安を抱えることが少ないといえます。
就労移行支援事業所を選ぶ時は、訓練プログラムの内容や事業所の雰囲気、評判、スタッフの様子などを比較して、自分に合う就労移行支援事業所を選ぶようにしてみてください。
就労移行支援以外に受けられる支援
就労移行支援以外に、ADHDの方が受けらる支援として医療支援があります。
ADHDの方が受けられる医療支援としては以下のようなものがあります。
受けられる支援 | 内容 |
---|---|
自立支援医療(精神病院) | 通院治療にかかる治療費や薬代の負担が原則1割となる。 |
精神障害者保健福祉手帳 | 税金の控除や公共料金の免除、福祉サービスが受けられる。 |
障害年金 | 年金を受け取ることができる(若い世代でも可能) |
発達障害の方も自立支援医療制度を利用することができるので、ADHDの方も利用可能です。
精神障害者保健福祉手帳は、初めて病院にかかった日から6カ月以上の長期にわたり日常生活に支障をきたす場合に取得可能な手帳。
金銭的負担を大幅に軽減できるほか、仕事探しや就職活動の際に障害者雇用枠への応募ができるなどのメリットがあるため、長期の治療に不安がある方におすすめです。
ADHDかもしれない、と思ったら
ADHDの特徴により懸念されること
ADHDは一見は問題がなく、大人になるまで診断が見過ごされることもあります。不注意、多動性、衝動性といった行動は発達障害がない子供にもよくみられるため、診断が困難という面もあるのです。
ADHDは周りから障害という認識を持ってもらえず、その特性で子供の頃から大人になるまでにいつも叱咤され、乱暴者、怠け者、努力不足といったマイナスの評価を受け続けてしまいます。
そうするうちに自己肯定感が低下し、二次障害で精神疾患を併発することも多くあります。長年の悩みから、ADHDと診断された人は「ほっとした」「自分の努力不足ではなかったことで嬉しかった」と安堵することが多くあり、医師の診断は二次障害を軽減し、前向きに生きるきっかけにもなるのです。
しつけや教育が原因ではない
一方で、ADHDの保護者にあたる人は厳しく接するも、周りからは「子供のしつけができていない」「育て方に原因がある」と否定的な評価を受け続けて悩み、大きなストレスを抱えることがあります。
ADHDの症状に理解を深めるためには、まず悩みや不安を医師に相談し、特徴を知ることで正しいサポートにつなげることができ、当事者や保護者の人も過ごしやすくなります。
社会から遠ざかる前に
ADHDの症状に悩んだら自己判断せず、精神科で医師の診断を受ける事から始めると良いでしょう。
手術や治療はありませんが、症状を自覚してコントロールすることや、習慣をつけるトレーニングをすることで少しずつ能力を伸ばしていく事が可能です。
また、ADHDの症状を軽減させる薬を服用することで落ち着いて物事に取り組むことができ、周りの人とうまくいかなかった関係性の悪循環から抜け出して成功経験を重ね、うつ病などの二次障害を防ぐことにも繋がります。
ADHDは脳の機能障害の一つですが、症状が出ることが障害ということではありません。症状が出ていても生活上に問題がなければ障害にはならないのです。
ADHDの症状とうまく付き合っていくためには、専門機関で正しい対処法を学んでいくことが大切なのです。