障害者総合支援法に基づく福祉サービスには、「就労移行支援事業所」や「就労継続支援事業所」などいくつかの制度があります。いずれも利用するときは、自分で通いたい事業所を選び、市町村の福祉課に申請して「受給者証」を発行してもらう必要があります。
ここでは、上記のような就労支援機関の特徴と、利用方法について説明しています。ひとりで就職活動をする自信がないという方は、こうした制度を利用して自分の能力を最大限に発揮できる適職を見つけてください。
チャレンジド・アソウ 広島事業所 /
チャレンジド・アソウ 大阪事業所 /
チャレンジド・アソウ 新大阪事業所 管理者
サービス管理責任者
監修:池田 倫太郎
株式会社チャレンジド・アソウ
立ち上げの中心メンバー。
就労移行支援事業、就労定着支援事業、
特例子会社の運営を行う。
障害のある方の離職率が高いのはなぜ?
2013年に改正された障害者総合支援法によって、障害のある方は就労支援を受けることができるようになり、一般企業に就職するケースが急速に増えてきました。
厚生労働省の「2018年障害者雇用状況の集計発表」によると、従業員50人以上の民間企業で雇用された障害者は約53万5千人で、前年より約4千人増加し、過去最高という結果が出ています。
雇用された障害者の内訳は、身体障害者が約34万5000人(対前年比3.8%)、知的障害者が約12万2000人(同7.9%)、精神障害者が約6万7400人(同34.7%)となっています。とくに精神障害者が大きな伸び率を示しています。
しかし、職場への定着状況を調べた結果を見ると、1年後の定着率は身体障害者が約61%、知的障害者が約68%、精神障害者が約49%、発達障害者が71.5%となっています。
これを裏返せば離職率を表わしますから、精神障害者の場合は1年以内に約50%が離職していることになります(参考:「障害者雇用の現状等」2017年 厚生労働省職業安定局)。
では、離職の理由はどのようなことかを見てみると、身体障害者と精神障害者それぞれ次のような理由が上位を占めています(知的障害に対する質問は行われていません)。
身体障害のある方の離職理由 | |
---|---|
1位 | 賃金・労働条件に不満 |
2位 | 職場の雰囲気・人間関係 |
3位 | 仕事内容が合わない |
4位 | 会社の配慮が不十分 |
5位 | 家庭の事情 |
精神障害のある方の離職理由 | |
---|---|
1位 | 職場の雰囲気・人間関係 |
2位 | 賃金・労働条件に不満 |
3位 | 疲れやすく体力・意欲が続かなかった |
4位 | 仕事内容が合わない |
5位 | 作業能率面で適応できなかった |
以上のことから、職場環境や労働条件が合わなかったために辞めていく人の多いことがわかります。5位以内には入っていませんが、「症状が悪化(再発)した」「障害のため働けなくなった」という障害そのものが原因で辞めた方も少なくありません。
この調査のほかに、「求人種類別」の定着状況を調べた結果があります。求人種類別というのは「一般求人」と「障害者求人」のことで、さらに障害を開示(オープン)しての応募と、非開示(クローズ)で応募した場合の定着率を調査したものです。
それによると、クローズにして雇用された方の定着率が低いことが明らかになっています。次項で一般求人(雇用)と障害者求人(雇用)の違いについて詳しく見ていきましょう。
5つの働き方(雇用枠)のメリット・デメリット
障害のある方の働き方には下記の5通りあり、それぞれ雇用条件や要求される水準、職場で受けられる配慮に違いがあります。
- 一般企業での一般雇用枠で働く
- 一般企業での障害者雇用枠で働く
- 特例子会社で働く
- 就労継続支援A型事業所(雇用型)で働く
- 就労継続支援B型事業所(非雇用)で働く
それぞれ解説を加えていきましょう。
一般企業での一般雇用枠で働く
公的機関や民間企業に直接応募する一般的な方法です。応募する際に障害があることをオープンにする場合とクローズにする場合があり、どちらにもメリット・デメリットがあります。
オープンにするメリット
- 職場の人たちに障害があることを知ってもらうことで、出勤はフレックスタイムにしてもらえたり、業務内容も負荷の少ない仕事を割り当ててもらえるなど、障害への配慮を得やすくなります
- 勤務時間中に服薬や通院が必要な場合でも、周囲によけいな気を遣ったり罪悪感を抱いたりすることがないので、きちんと治療を続けることができます。
- てんかんやパニック障害などがあって発作を起こしたとき、周囲の人に適切に対応してもらうことができます。
オープンにするデメリット
- 自分ひとりで仕事を探す場合、障害者求人は一般求人に比べると求人数が少ないため、選択肢が少なくなります。
- 業務内容が制限されたり、昇給・昇格などの待遇面でもほかの社員より水準が低めに設定される場合があります。
クローズにするメリット
- 仕事は一般求人から探すことになるため選択肢が多くなり、やりたい仕事を見つけやすくなります。
- 雇用形態や賃金体系など、雇用契約はほかの社員と同じです。
クローズにするデメリット
- ほかの社員と同じ業務を任され、同等の成果を上げることを求められます。残業なども正当な業務命令であれば断ることができません。
- 勤務時間中の服薬や通院はタイミングを見計らうのが難しく、治療を中断する結果になりがちです。
- 障害があることがいつかばれるのではないか、ばれたらクビになるのではないかという不安や恐怖がストレスとなって、体調にも影響してしまうことがあります。
一般企業での障害者雇用枠で働く
障害者雇用枠とは、公的機関や民間企業に義務づけられている障害者雇用のための特別枠のことです。これを「法定雇用率」といい、民間企業の場合、全従業員の2.2%にあたる障害者を雇用することとされています。以前は身体障害者と知的障害者が対象でしたが、2018年4月から精神障害者と発達障害者も雇用義務に加わりました。
障害者雇用枠に応募するには「障害者手帳」を保有していることが要件ですから、最初から障害をオープンにして臨むことになります。
「障害者年金」を受給している方も応募することができます。賃金をもらうようになれば年金支給がストップされるのではないかと思われがちですが、障害者年金の審査に就労の有無は影響しないので、働きながら受給することができます。
障害者雇用枠で就労するメリット
- 仕事は体力やスキルの程度に応じて割り当てられるので、無理せず自分のペースで取り組むことができます。
- 職場環境が障害者の働きやすいように調整されているところが多く、困ったときは上司や同僚にサポートしてもらえます。
- 障害を持つ方と知り合うことができ、お互いに励まし合いながらスキルアップしていくことができます。
障害者雇用枠で就労するデメリット
- 負担の軽い仕事が多いことから、一般雇用に比べると賃金その他の待遇は悪くなりがちです。
- 高学歴でも責任ある仕事に就けてもらえず、能力のある人ほど物足りなさを感じてモチベーションを維持するのが難しくなります。
- 障害者雇用枠を設けている企業は少ないというのが現状のため、職種が限られ、自分のやりたい仕事を探すのはなかなか困難です。
特例子会社で働く
特例子会社とは、企業が障害者の雇用に特化して設立した子会社のことです。前述したように企業には法定雇用率が定められていますが、子会社で雇用した障害者数を親会社の雇用分として算定することが認められています。
特例会社にはどんな会社でもなれるわけではなく、設備など一定の要件を満たしたうえで厚生労働大臣の認定を受ける必要があります。
特例子会社で働くメリット
- たいていの特例子会社は、床はバリアフリーで、オストメイト(人工肛門などを造設している方)に対応したトイレが完備しているなど、障害に対する配慮が行き届いています。設備だけでなく、ジョブコーチ(職場適応応援者)が配属されていて、困ったときは何でも相談できる環境になっています。
- 出勤時間や勤務時間、休憩時間も障害特性に配慮して決められます。
特例子会社で働くデメリット
- 正社員として働くこともできますが、親会社の正社員に比べると給料は安くなります。
- 高度なスキルを必要としない作業が多いため、長く勤めてもスキルアップが望めないという点はデメリットです。
就労継続支援A型事業所(雇用型)で働く
就労継続支援とは、障害のある方の職業訓練や生産活動を支援する福祉サービスで、「A型」と「B型」の2種類があります。
A型は、現段階では一般企業への就労が難しい方や、就労経験があるが今は休職中の方が、飲食店の調理補助やパソコンでの入力作業、部品加工などの労働をしながら、同時に就職に必要なスキルやコミュニケーション力を身に着けていきます。
事業所と雇用契約を結び、労働の対価として最低賃金額以上の賃金が保証されています(2018年度平均時給額は818円)。65歳未満の方が対象で、利用期間に制限はありません。
A型事業所で働くメリット
- 一般就労に比べれば賃金は低額ですが、定期収入が見込めるので働くモチベーションを維持することができます。
- 休まずに働くことで自信がつき、一般企業に就職しやすくなります。
A型事業所で働くデメリット
- 一般企業への就労を目指しているため、遅刻や欠勤など勤怠に関しては比較的きびしく管理されます。
- いろいろな障害を持つ方と一緒に作業をするので、中には意思の疎通が難しい方がいて心理的ストレスになる場合があります。
就労継続支援B型事業所(非雇用)で働く
B型は、A型での就労が難しい方、一般企業での就労経験がある方で体力・年齢的な面で就労が困難な方などが対象となります。パンやクッキーづくり、軽い農作業、清掃作業などを行いながら社会復帰に必要なスキルを身に着けていきます。
事業所と雇用契約を結ぶことはなく、成果物に対する報酬として工賃が支払われます(2018年度平均時給額は205円)。利用者に年齢制限はなく、50歳以上の方も対象となります。利用期間にも制限がないので、その事業所に就職したかのように長期就労する方もいます。
B型事業所で働くメリット
- B型事業所から職業訓練をスタートすると、働くことの基本的な姿勢を学ぶことができ、職業生活に向けて一段ずつステップアップできる点が大きなメリットです。
- A型事業所より仕事の内容も勤怠に関する管理も緩やかなので、比較的自由な環境で働くことができます。
B型事業所で働くデメリット
- 働くというより、A型事業所や一般企業へ移行するための職業訓練またはリハビリといった意味合いがあるため、工賃はA型の賃金よりだいぶ安く設定されています。
- 単純作業が多くて飽きてしまい、やりがいが感じられなくなることがあります。
以上が障害のある方の主な働き方です。障害者雇用枠や特例子会社などは別として、一般企業を希望する方が気になるのは障害をオープンにすべきかどうかでしょう。
確かに就労して10年、20年と定着できる可能性が高いのはオープンのほうですが、オープンとクローズのどちらが正しいとは一概に言えません。
大事なのは、自分はどのような仕事をやりたいのか、どのような職場で働きたいのかをよく考えて選ぶことです。定着できず、何度も転職を繰り返していると精神的にも疲れてしまいます。
また、キャリアアップできないまま職歴だけ増えるのは次の就職活動に不利になります。
とはいえ、自分のやりたい仕事が必ずしも適職ではありません。たとえば、発達障害でコミュニケーションに困難があり、ジョークやお世辞をうまく言えない方が営業職や接客業を選んだ場合、仮に採用試験に受かったとしても仕事を継続させることは難しいでしょう。
こうしたミスマッチングが生じるのは、希望する仕事の内容を現実的・具体的に想像する力や、その会社で成長していく自分の姿をイメージする力が弱いことも一因になっているといわれます。
自分の適性を見極めるのは、簡単なようで難しいものです。適性がわからず、就活で失敗を繰り返しているような場合は、「就労移行支援」という福祉サービスを利用する方法があります。
次項では、その就労移行支援の利用方法について説明します。
アドバイス:障害があることがばれた場合はどうなるの?
障害をクローズにして就職した場合、会社にばれたときは罰則があるのか心配になりますが、答えは「罰則はない」ということです。
就職するときに障害があることを告知する義務はなく、会社側も強制的に障害の有無を答えさせるようなことは禁じられています。
ただし、クローズで働くとなると、体調や気分が悪くて出勤するのがつらくても障害を理由にできません。
また、負担の大きい仕事でも頼まれれば引き受けなければなりません。一社員として常に体調管理に努め、就業規則や雇用契約に定められた業務を成し遂げる必要があります。
オープンにするかクローズにするかは、賃金や業種だけで決めるのではなく、長期就労するためにはどちらが有利かをよく考慮して判断するようにしましょう。
就労移行支援事業所を利用して自分の適職を見つけよう!
就労移行支援事業所は、上記の就労継続支援A型・B型事業所と同じ就労支援機関の1つです。
就労継続支援は、一般企業で働くのが難しい方に働く場を提供し、社会復帰を応援する事業であるのに対し、就労移行支援は、一般企業への就職が可能と見込まれる方を対象に、職業訓練から就職活動、職場定着まで通してサポートする事業です。
トレーニングが主体なので賃金(工賃)は発生しません。
就労支援事業所は、社会福祉法人やNPО法人、民間企業が運営する施設で、市町村の指定を受けて福祉サービスを提供しています。
チャレンジド・アソウは、福岡を本拠地に、博多、広島、大阪、新大阪に事業所を置き、障害があっても企業の戦力となれる人材を育成して一般企業に送り出しています。
サービス内容は就労移行支援事業所によって異なりますが、ここでは一般的な就労移行支援事業所のシステムとサービス内容について説明します。
就労移行支援のシステム
ここでは、就労移行支援のシステムを簡単に解説します。
利用対象者
以下の3つの要件を満たす人が対象となります。
- 18歳以上65歳未満の方(要件を満たせば65歳以上の方も利用可能)
- 身体障害、知的障害、精神障害(発達障害、統合失調症、うつ病、てんかんなど)、難病のある方
- 一般企業への就労または開業を希望する方で、就労が可能と見込まれる方
利用期間
職業訓練から就職活動まで2年間、その後の定着支援が6か月間というのが標準です。2年間で就職に至らなかった場合は最大1年延長することも可能ですが、延長が適当かどうかは市町村の審議会によって判断されます。
利用料金
利用料金は9割を市町村が負担し、1割を利用者が事業所に支払うことになっていますが、ほとんどの方が無料で利用されています。前年度の収入がおおむね300万~600万円の場合は上限9,300円/月、それ以上の場合は上限32,000円/月の自己負担が発生します。
利用申し込み
福祉サービスを受けるときは市町村が発行する「受給者証」が必要です。通いたい就労移行支援事業所が見つかったら障害福祉課の窓口に、「サービス等利用計画書」と本人が障害者であることを確認できる書類(障害者手帳か医師の診断書または意見書)を提出します。
審査に通ると受給者証が本人あてに送られてくるので、それを持って事業所へ行き、事業所との利用契約を結びます。
就労移行支援の対象者と利用期間・利用料金・必要な手続きについてもっと詳しく見る
就労移行支援事業所で受けられるサービス
個別支援計画書作成
利用契約を結んだあと、利用者と支援スタッフの面談を行います。本人の特性や能力、就労に関する希望や条件などを共有して「個別支援計画書」を作成し、それに沿って訓練を開始します。
職業訓練
プログラムは、ビジネスマナーやパソコン操作、コミュニケーションスキルが中心ですが、生活リズムの整え方や休憩の取り方、ストレスのコントロール法といった自己管理力を身に着けるためのトレーニングも組まれています。
職業訓練を積んだところで職場実習(インターンシップ)が実施されます。事業所と連携している企業に1~2週間通って社員と一緒に働きます。それによって自分の得意・不得意を認識することができ、適性がわかってくるようになります。
就職活動
事業所は、訓練や職場実習を通して本人の適性を把握したら、ほかの就労支援機関(ハローワークや地域障害者職業センター、障害者就業・生活支援センターなど)と連携して本人に最も適した仕事を探します。それとともに応募書類の書き方や面接の受け方もレクチャーし、面接当日は本人が希望すれば同行します。
定着支援
無事に就職できても慣れない仕事と人間関係でストレスがたまり、早くも1、2か月目で離職を考える方が出てきます。そのようなときに支援スタッフが本人の悩みや会社への要望など聞き、代わりに上司に伝えて、社員の負担にならない範囲で職場環境の改善を提案したりします。
こうした介入の回数を6か月かけて徐々に減らしていき、支援スタッフ主体の支援から上司や同僚主体の支援に移行していきます。このようにして職場内の支援体制を整え、障害のある方が自立して働き続けられるようにしていくのが定着支援の目的です。
就労移行支援のメリット・デメリットは?
ここまで解説したように、就労移行支援は障害のある方が一般企業に就職して活躍していくために必要な力を土台から育ててくれるサービスです。他の就労継続支援などと違い、比較的条件の良い一般企業に就職する道が切り開けるのが、就労移行支援の一番のメリットでしょう。
一方、デメリットとしては、通っている間は収入がないという点が挙げられます。就労移行支援はあくまで訓練のための施設なので、通所している期間は訓練期間という位置づけです。当然、訓練に賃金は発生しないため、就労移行支援事業所に通っている間にお給料をもらうことはできないのです。
ただし、就労移行支援で一般企業でも活躍できるスキルを身につければ、就労継続支援などよりも高収入を得ることができるのが重要なポイントです。また、何も利用せずに自分だけで一般就職するよりも遥かに就職率・職場定着率が高いことも覚えておきましょう。
就労移行支援のメリット・デメリットまとめ
福祉法人や民間企業などが運営する就労移行支援事業所は、全国に約3,400か所あり、利用者数は約3万4000人に及んでいます。
サービス内容は事業所によって異なります。ビジネススキルの向上に力を入れている事業所、資格取得のための講座が充実している事業所、発達障害やうつ病などの精神障害に特化した事業所など、それぞれ特色があります。
利用するときは、いくつかの事業所を見学し、プログラムをチェックしたり、支援スタッフやほかの利用者の様子を観察して、ここなら信頼できて無理なく通えそうだと思えるところを選ぶようにしましょう。
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