障害者雇用について
障害者雇用で戦力アップ!就労支援機関を上手に活用=障害者雇用促進法と法定雇用率=

障害者雇用で戦力アップ!就労支援機関を上手に活用=障害者雇用促進法と法定雇用率=

2018年に「改正障害者雇用促進法」が施行され、障害のある人を採用する企業が業種を問わず増えています。

障害者というと育成・指導が難しいというマイナスイメージを抱きがちですが、就労移行支援事業所などでトレーニングを積んできた人たちは即戦力となって活躍している人がたくさんいます。

ここでは、初めて障害者雇用に取り組むという事業主のために障害者雇用促進法について解説し、障害のある人を採用するにあたって理解しておきたいことや、事業主の相談に応じてくれる支援機関なども紹介していますので、ぜひ参考にしてください。

チャレンジド・アソウ 広島事業所 /
チャレンジド・アソウ 大阪事業所 /
チャレンジド・アソウ 新大阪事業所 管理者
サービス管理責任者

監修:池田 倫太郎

株式会社チャレンジド・アソウ
立ち上げの中心メンバー。
就労移行支援事業、就労定着支援事業、
特例子会社の運営を行う。

障害者雇用促進法について知っておきたいこと

障害者雇用促進法とは、障害のある人の職業の安定を実現するための施策を定めた法律です。事業主に対しては、「障害のある人の能力を正当に評価して雇用の場を提供し、適正な管理を行うことで雇用の安定を図ること」と定められています。

具体的な取り組みとして、国や地方公共団体、民間企業の事業主に対する「障害者雇用率制度」と「障害者雇用納付金制度」の2つの制度が設けられています。

障害者雇用率制度

「障害者雇用率」とは、雇用している全従業員に占める障害者の割合を指し、一定の率に相当する障害者を雇用することを義務付けた制度です。

この一定の率を「法定雇用率」といい、民間企業は2.2%とされています(2019年現在)。つまり、従業員を45.5人以上雇用している企業において、障害者を1人以上雇用する義務が発生することになります。

なお、短時間労働者(1週間の所定労働時間が20時間以上30時間未満)の場合は、1人を0.5人としてカウントすることになっています。

法定雇用率
民間企業(従業員数およそ45.5人以上の規模) 2.2%
都道府県の教育委員会(職員数およそ42人以上の規模) 2.4%
国・地方公共団体(職員数およそ40人以上の規模) 2.5%

※法定雇用率は2021年4月までに民間企業では2.3%に引き上げられ、43.5人以上に拡大される予定です。

障害者雇用納付金制度

全従業員が100人以上の企業で、法定雇用率に達していない事業主から納付金を徴収する制度です。金額は、法定雇用障害者数に不足する障害者1人につき50,000円(月額)とされています。

ただし、従業員が100人超~200人以下の企業の場合は、2020年3月まで月額40,000円に減額する特例が適用されます。

納付金は罰金とは意味合いが異なります。たとえば、肢体不自由のある人を雇用する企業ではバリアフリーに改修するなど、本人が利用しやすい職場環境に整備するための費用がかかります。

そうすると雇用義務を果たしている事業主と果たしていない事業主との間に経済的負担の差が生じます。納付金はその差を調整し、障害者雇用の機会を拡大することを目的としています。

納付金の徴収業務を行っているのは「独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構」で、徴収した納付金は、以下で説明する調整金や助成金などの財源として使われています。

「障害者雇用調整金」の支給

全従業員が100人以上の企業で、法定雇用率を超えて障害者を雇用している事業主に対し、超えている障害者1人につき27,000円(月額)の障害者雇用調整金が支給されます。

「障害者雇用報奨金」の支給

全従業員が100人以下の中小企業に対して、障害者雇用を奨励する観点から支給するものです。

各月の初日における雇用障害者数の年度合計数から一定数(各月の初日における全従業員数に4%を乗じた数の年度合計数と72人のうち、どちらか多い数)を控除した数に、21,000円(月額)を乗じた金額が障害者雇用報奨金として事業主に支給されます。

報告を怠った事業主には罰金が科せられる

障害者雇用義務の対象となる事業所には、毎年雇用状況をハローワークに報告する義務も課せられています。報告を怠ったり、虚偽の報告をした場合は、30万円以下の罰金が科せられます。

また、雇用率が未達成の事業主に対しては、ハローワークが雇用計画の実施についての指導を行います。それでもなお雇用状況が改善されない場合は、厚生労働省は企業名を公表できることになっています。

障害者雇用率の対象者

障害雇用促進法における障害者とは、「身体障害、知的障害、精神障害、その他の心身の機能障害があるため、長期にわたり職業生活に相当の制限を受け、または職業生活を営むことが著しく困難なもの」と定義されています。

このうち、障害者雇用率の算定の対象とされる障害者は、次表のように障害者手帳を持つ人に限定されています。

障害者雇用率算定の対象者
身体障害者 視覚、聴覚、音声機能障害、肢体不自由、内部障害(心臓、呼吸器、心臓、肝臓など)などがあり、身体障害者手帳を持っている人。1,2級の重度の手帳を持つ人は、1人を2人としてカウントされる
知的障害者 知的機能に遅れがあり、適応機能(コミュニケ―ション能力)にも制限があり、療育手帳を持っている人。児童相談所や精神保健福祉センターなどの知的障害者判定機関で重度の知的障害と判定された人は、1人を2人としてカウントされる
精神障害者 統合失調症、躁うつ病、てんかん、発達障害(自閉症スペクトラム、ADHD,LD)などがあり、精神障害者保健福祉手帳を持っている人。症状が安定していて、就労が可能な状態であることも条件となる

なお、障害者を雇用することによって支給される助成金制度はほかにも数多くあります。それらの中には、障害者手帳を保有していない人を雇用した場合でも支給されるものがありますから、ハローワークや障害者就業・生活センター(後述)に問い合わせてみるといいでしょう。

障害者雇用を促進するさまざまな助成金について詳しく見る

障害者を募集・採用するときのルールとは?

障害者雇用促進法では、障害者を雇用する事業主が募集・採用から定年までの雇用期間において適切に管理するための指針として、「障害者に対する差別の禁止」と「合理的配慮の提供」という2つのルールを定めています。

障害者に対する差別の禁止

募集・採用、賃金、配置、昇進、教育訓練その他の待遇について規定したもので、具体的には次のような対処の仕方は禁じられています。

  • 「障害者だから」という理由だけで求人への応募を認めない。
  • 本人の能力を適正に評価せず、障害者という理由だけで昇進や昇給の対象としない、軽度の職務を割り当てるなど、明らかに不公平な措置を取ること。
  • 研修や現場実習を受けさせない。
  • 昇級にあたって、障害者のみに昇級試験を課すこと。
  • 障害者だけを正社員(フルタイム)から非正規社員(パートタイム)に変更させること。
  • 解雇の基準を満たす従業員の中で、障害者のみ退職の勧奨対象とすること。

そのほかにもありますが、どのようなケースが「差別」にあたるのかあたらないのか、障害者本人と事業主が話し合って認識を共有する必要があります。

合理的配慮の提供義務

合理的配慮とは、障害者に対して事業主の負担が過剰にならない範囲で配慮することをいいます。

たとえば、面接時に、発達障害があってコミュニケーション力が弱いため、自分の特性や希望などを的確に伝えることができないという場合、就労支援機関の支援員が同席して、本人に代わって説明することを認めるといった配慮が求められます。

採用後は、コミュニケ―ション力の弱い人は仕事の指示を出されるとき、「それを早く片付けて、あっちを手伝って」などと言われると頭が混乱してパニック状態に陥ることがあります。「それ」「あっち」などの指示語や、「早く」などのあいまいな表現は理解できないからです。

そのような人に対しては、作業指示は1つずつ出し、「それ」「あっち」ではなく「その書類を」「○○さんの仕事を」、「早く」ではなく「3分で」のように具体的に伝えるようにします。

腎臓や心臓など内部障害のある人には、服薬や通院がきちんとできるように周囲が気を配らなければなりません。それには、本人のプライバシーを侵害しない程度に、ほかの従業員に病気について説明しておく必要があります。

ただし、合理的配慮は本人から申し出(意思表明)があった場合に配慮を検討し、実施することが望まれます。

働いてみて支障になっていることや不満に思っていることはないかを本人に確認することは必要ですが、障害の種類や程度によってはプライバシーにかかわることですから、事業主のほうからあれこれ聞き出すようなことは慎まなければなりません。本人からの意思表示がない場合は、合理的配慮を欠いたとしても義務違反に問われることはありません。

また、配慮することで事業主の経済的・人的な負担が重くなるという場合も提供の義務はないとされています。どのようなことまでが合理的配慮で、どこまで本人に必要なのか、こうしたことも障害者本人と話し合って明確にしておくことが大切です。

初めて障害者を雇用するときは、地域の就労支援機関に相談する

最近は、雇用率が著しく低い企業に対する指導が強化されていることや、CSR(corporate social responsibility:企業の社会的責任)に対する認識が高まっていることから、障害者雇用に積極的に取り組む事業主が増えています。

その一方で、「障害者雇用を検討しているが、社内ではどのように進めればいいのかわからない」といった声も少なくありません。そうした事業主の相談窓口として、ハローワークや障害者職業センター、障害者就業・生活センターなどがあります。その中でも、障害者就業・生活センターは障害者本人や事業主にとっていちばん身近な相談所といえます。

障害者就業・生活センターは、社会福祉法人やNPO法人が運営する就労支援機関で、全国に334センターがあります(2019年現在)。

障害者に対しては就労面だけでなく生活全般の支援を行い、事業主に対しては障害者の特性を踏まえた雇用管理の仕方や職場環境の整備などについて専門的なアドバイスをしてくれます。相談は予約制で、料金は無料です。

同センターは、仕事の紹介や職業訓練を実施する機関ではありません。仕事の紹介はハローワークと連携して行い、職業訓練を必要とする人に対しては就労移行支援事業所への斡旋を行っています。

就労移行支援事業所とは、一般企業への就職を希望する障害者をサポートするところです。就労移行支援事業所は全国に約3,400か所あり、利用者が年々増えています。

利用者が増えている理由として、職場定着率の高いことがあげられます。次項で就労移行支援事業所について詳しく見てみましょう。

就労移行支援事業所で受けられるサービスとは?

就労移行支援は、障害者総合支援法に基づく「障害福祉サービス」の1つです。

利用対象者は、①18歳以上65歳未満、②身体障害・知的障害・精神障害・難病がある、③一般企業への就労を希望し、就労可能と見込まれる、の3つの要件を満たす人とされています。

サービス内容は各事業所によって異なりますが、一般的には「職業訓練」「就活支援」「定着支援」の3つのステップを踏んで、長期就労へとつなげていきます。

利用期間は就活支援までが2年間、定着支援は6か月間が標準です。2年間で就職に結びつかない場合は最大1年間の延長が可能です。

ビジネスマナーやコミュニケーションスキルを身につける職業訓練

最初に利用者と支援員が面談を行って「個別支援計画」を作成し、それに基づいて訓練を開始します。生活リズムが乱れている人は、最初は週3日の通所からスタートし、最終的には企業と同じ週5日きちんと通えるようにしていきます。

職業訓練では、ビジネスマナーやコミュニケーション力、パソコン操作など、就労に必要なスキルを高めるためのカリキュラムを中心に、休憩の取り方や薬の飲み忘れ防止策など健康管理についての指導が行われます。

中~後期になると、事業所と提携している企業で、1~2週間ほど「職場実習(インターンシップ)」を実施するのが一般的です。

本人の適性にマッチした仕事を探す就活支援

職業訓練やインターンシップを通して本人の適性を見極めたところで、就職活動に入ります。

就労移行支援事業所も仕事を直接紹介することは制度上できないため、ハローワークと連携して仕事を探します。応募書類の書き方や、面接の受け方などのレクチャーも行います。

面接当日は必要に応じて同行し、本人の特性や配慮してほしいことなどを説明します。必要な配慮に関しては事業主にとっても重要な情報ですから、遠慮せずにはっきり伝えておく必要があります。

本人と事業主の両方をサポートする定着支援

無事に就職できてもそこがゴールではありません。入社後1,2か月目ごろは、慣れない仕事と人間関係でストレスがたまり、早くも離職を考える人も出てきます。

そうしたときに支援員が本人と職場の間に入って長期就労に向けて手助けをします。

本人には無理せずに効率よく働くためのアドバイスをしたり、職場に対する不満を聞いてあげたりします。上司や同僚に対しては、障害について理解を深めるための助言や、合理的な配慮(会社側にとって過剰な負担にならない程度の配慮)の仕方を提案します。

支援員が介入する回数を6か月の間に少しずつ回数を減らしていき、支援員主体のサポートから上司や同僚主体のサポートに移していきます。このようにして職場内のサポート体制を整え、障害のある人が自立して働き続けられるようにしていくのが定着支援の目的です。 

この定着支援は就労移行支援事業所で行われてきましたが、2018年4月より、「職場定着支援制度」がスタートし、就労6か月後から3年間、「就労定着支援事業所」が行うことになりました。就労移行支援事業所での6か月と合計して3年6か月間、継続して定着支援を受けられるようになったわけです。

新しい職場定着支援制度は、事業主にとっても心強い味方となります。たとえば、本人が職場でなんらかの問題を起こしたとき、自分ひとりで悩むことなく支援員に相談することができるので、事業主としても安心できるからです。もともと就労移行支援事業の利用者は定着率が高いのですが、これによって一層高まることが期待されています。

まとめ

障害のある人を雇うのは初めは不安に感じるかもしれませんが、そのようなときは近くの障害者就業・生活センターや就労移行支援事業所、ハローワークなどで気軽に相談してみましょう。仮にその場で解決方法が見つからなくても適切な相談窓口を紹介してくれます。

障害者雇用率を達成することは経営者として社会的責任を果たすことであり、対外的な信用度が高まります。また就労移行支援事業所で2年間職業訓練を積んできた人は即戦力となって活躍してくれます。

そうした優れた人材を確保するためにも地域の就労支援機関を大いに活用しましょう。

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