生まれつきの心臓病であるファロー四徴症は、乳幼児期に手術を受けることになります。医療の進歩によって術後は順調に成長し、高校・大学卒業後はふつうに職業生活に入ります。
ところが、術後20年も30年もたってから不整脈などの症状が現れ、通院や入院のために離職を余儀なくされ、再就職もできなくて困っているという方が少なくありません。
ここでは、ファロー四徴症の症状と予後について解説し、一般企業に就職して職場に定着するまでサポートする「就労移行支援」を紹介しています。
自分に合った仕事を探すのは難しいという方はぜひ参考にしてください。
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チャレンジド・アソウ 新大阪事業所 管理者
サービス管理責任者
監修:池田 倫太郎
株式会社チャレンジド・アソウ
立ち上げの中心メンバー。
就労移行支援事業、就労定着支援事業、
特例子会社の運営を行う。
ファロー四徴症とはどんな病気?
フランスの小児循環器科医・ファローが初めて報告した先天性の心疾患で、次の4つの特徴を持つことから「ファロー四徴症(Tetralogy of Fallot)」と名付けられました。
1) 右心室と左心室を仕切る筋肉(心室中隔)に大きな孔(あな)が開く「心室中隔欠損」
2) 本来は左心室とだけつながる大動脈が、心室中隔にまたがるように右心室と左心室の両方につながっている「大動脈騎乗(きじょう)」
3) 右心室から肺動脈につながる血流路が、肺動脈弁(血液の逆流を防ぐ膜)と一緒に狭くなる「肺動脈狭窄(きょうさく)」
4) 本来は血圧が低い右心室が、肺動脈狭窄のために血圧が上がり、その圧に抗しているうちに右心室の筋肉が厚くなる「右心室肥大」
ファロー四徴症では、生後間もなく心雑音がするようになり、生後2~3か月ごろから、激しく泣いているときや排便時、入浴時などにチアノーゼが現れるのが特徴です。
チアノーゼとは、血液中の酸素が欠乏している状態で、唇や爪、皮膚、粘膜などが青紫色になる現象をいいます。
ここで心臓の働きと血液の流れについておさらいしてみましょう。
血液(動脈血)は全身の組織に酸素を運んでいますが、その役目を果たしているのは赤血球に含まれるヘモグロビンという血色素です。
ヘモグロビンは肺で酸素と結びついて酸化ヘモグロビンとなり、心臓の左心房、左心室を経て大動脈に入り、心筋の収縮によって全身に送り出されます。
酸化ヘモグロビンの色は赤く、これが動脈血の色になっています。
ヘモグロビンは筋肉や内臓などの組織に酸素を届けると、酸素が燃焼して発生した二酸化炭素を含む血液(静脈血)を回収して心臓に帰り、右心房、右心室を通り、肺動脈を介して肺に送り出します。
酸素を持たないヘモグロビンの色は黒っぽい赤褐色になるため、静脈血は皮膚を通すと青紫色に見えます。
肺で二酸化炭素と酸素を入れ換えるガス交換が行われ、再び赤い動脈血となって左心房に戻り、左心室を経て大動脈から全身に送り出されます。
ところが、ファロー四徴症になって肺動脈狭窄や心室中隔欠損などが生じると、帰ってきた静脈血が右心室から肺動脈に行かずに、左心室の動脈血に大量にまざり、そのまま全身に送り出されてしまいます。その結果、動脈血中の酸素濃度(飽和度)が低下し、唇などが青紫色になるチアノーゼが現れるようになります。
重症になると、チアノーゼとともに呼吸困難が強くなる「無酸素発作」を起こすことがあります。
無酸素発作は3歳ごろをピークに治まっていくのがふつうですが、未治療のまま経過したり治療を途中でやめたりすると、成人期になってからチアノーゼによる合併症や無酸素発作を引き起こすことがあります。
ファロー四徴症の原因はまだ不明
ファロー四徴症は、胎生期に心臓が形成される段階で発症します。発症には染色体の異常が関与しているという説がありますが、まだ原因は特定されていません。
ただ、染色体22番の異常によって起こるダウン症(目鼻立ちに特徴があり、心臓や消化器官の形態異常、精神遅滞を伴うことの多い先天性疾患)と合併することがあり、ファロー四徴症の15%にこの合併症があると報告されています。ファロー四徴症の原因は、染色体異常のケース以外はまったく不明というのが現状です。
ファロー四徴症の治療法
ファロー四徴症の治療は手術が基本です。手術は「根治手術」と「姑息(こそく)手術」に分けられます。
根治手術
根治とは病気の完治を目指すもので、人工心肺装置を使用し、心臓の拍動を止めて行います。「開心術」「心内修復術」ともいい、代表的な手術として次のような方法があります。
心室中隔欠損パッチ閉鎖術
心臓を開いて欠損孔の位置を確認し、欠損孔の大きさに合わせたパッチ(フッ素樹脂でできた膜)を縫い合わせて欠損孔を閉鎖します。
最近は、カテーテルを用いて欠損孔をふさぐ方法が導入され、いずれカテーテル治療が主流になると見られています。
右室流出経路パッチ拡大術
右心室から肺動脈にかけて切開し、肺動脈弁の下の筋肉が張り出していれば筋肉を切除し、弁そのものが狭い場合は狭い部分にパッチを当てて拡張します。
自己弁温存法
肺動脈弁がそれほど狭小化していない場合は、パッチは用いず、自分の肺動脈弁を残して右心室から肺動脈への血流路を再建する「自己弁温存法」が行われることがあります。
ファロー四徴症は年齢が高くなればなるほど完治が難しくなるため、3歳を目安に根治手術を行います。
最近は根治手術の対象が低年齢化し、1歳前後で施術するケースが増えています。
姑息手術
姑息手術は、新生児や発育がよくない幼児に対して、重症のチアノーゼと無酸素発作を改善し、心室や肺動脈の発育を促す目的で行われるものです。
根治ではなく「一時しのぎ」という意味で「姑息」という言葉が使われています。代表的な手術は以下の2つで、いずれも人工心肺装置は使用せず、拍動下で行います。
BT(ブラロック・トーシッヒ)シャント術
シャントとは「短絡」と訳され、シャント術という場合は、大動脈と肺動脈の間に人工血管を使って血流路を造る手術を指します。
「ブラロック・トーシッヒシャント術」は開発した外科医の名を冠したもので、肺動脈狭窄などで心臓から肺に行く血液が少ない場合に用いる方法です。
鎖骨下大動脈と肺動脈の間を人工血管で直接つなぐことで肺に流れる血液量を増やします。
肺動脈絞扼術(バンディング)
肺動脈のまわりにテープを巻いて、肺に流れる血液を減らす方法です。
心室中隔欠損などで動脈血と静脈血が混じり合うケースでは、血液が肺に流れすぎていることがあり、心不全や呼吸不全の原因になるため、肺血流を適正に調節する目的で行われます。
シャント術やバンディングはあくまでも姑息手術なので、体重の増加を待ち、条件が整ったところで根治手術を行うことになります。
ファロー四徴症の予後や寿命と「成人先天性心疾患」
根治手術を行った後は、激しい運動は制限されますが、チアノーゼや無酸素発作の心配がなくなるので通常の生活を送ることができます。
ただ、根治手術といっても先天的な心臓の構造異常が正常になったわけではないので完治とはいえません。そのため、定期的な検査とケアは必要です。
幼少期に受けた手術は成功したものの、成長とともに弁や筋肉を縫合した部分が引きつって心臓の機能が低下したり、術後20年、30年と経ってから不整脈を伴う肺動脈弁閉鎖不全や心室性機能低下などが現れることがあります。
これを「成人先天性心疾患」といい、年々増える傾向にあります。
成人先天性心疾患が増えている背景には、育ち盛りの学童期から思春期にかけては体力があるため病気は完治したものと思って、通院をやめてしまうケースが多いことがあります。
頻度は極めて低いのですが、不整脈や心不全のため30~40代の若さで突然死に至ることがあります。
その一方、70歳過ぎても元気で通常の日常生活を送っている方もたくさんいます。
体調がよくなると病院への足が遠のきがちですが、年に2,3回は定期検査を受けるようにしましょう。
有効な抗不整脈薬や心不全治療薬が開発されていますから、必要に応じて投薬治療を受ければ突然死の予防になりますし、成人先天性心疾患が現れても悪化を防ぐことができ、寿命を延ばすことが期待できます。
受診するときはかつての主治医のいる病院がいちばんですが、それが不可能の場合は、成人先天性心疾患に詳しい循環器科医を探す必要があります。
高血圧などの生活習慣病が原因で起こる後天的な心疾患とは大きく異なるため、専門的な知識と経験が必要だからです。
住まいの近くに適切な病院がないという場合は、「日本成人先天性心疾患学会」の公式サイトで調べてみるといいでしょう。
http://www.jsachd.org/disease/establishment.html
ファロー四徴症は身体障害者手帳を受けられる
ファロー四徴症は、身体障害者福祉法における心臓機能障害(内部障害)に含まれているので、申請して認定されると身体障害者手帳を取得することができます。
手帳があると主に次のような制度を利用することができます。
- 所得税と住民税の控除、自動車取得税の減免
- 医療費の補助(原則として自己負担が1割。ただし、医療機関が指定される)
- JRなどの交通運賃、航空運賃、高速道路利用料金などの割引
- 車椅子など補装具の支給
- 障害者総合支援サービスによる就労支援 など
申請の仕方などについては、主治医あるいは市区町村の障害福祉課で相談に応じてもらえます。
なお、障害者基礎年金は、「介助が必要で、軽労働しかできない」などの厳しい条件が付くため、認定されるケースは少ないといわれています。
ファロー四徴症の人が利用できる就労移行支援
ファロー四徴症のある人は、高校や大学卒業後に就職して、健常者と変わらない活躍をしている人がいます。
しかし、20代後半になったころに不整脈などが現れて離職を余儀なくされ、再就職をしたくても「疲れやすくてフルタイムでは無理」「体力的に立ち仕事はできない」といった理由で、なかなか自分に合った仕事を見つけられずにいる人も少なくありません。
そうしたハンディがあるけれど一般企業で働きたいという方を応援するのが「就労移行支援」という障害福祉サービスです。
同じ障害福祉サービスに、「就労継続A型事業所(雇用型)」と、「就労継続B型事業所(非雇用型)」がありますが、就労移行支援事業所は、就職に必要な知識やスキルを向上させるための訓練から、就職して定着するまで一貫してサポートするのが特徴です。就労移行支援制度の利用の仕方は下記の通りです。
利用対象者
次の3つの要件を満たす人が利用することができます。
- 18歳以上65歳未満の人
- 身体障害、精神障害、難病のある人
- 一般企業への就労を希望し、就労可能と見込まれる人
一般企業の業種は、事務、IT・情報通信、公的機関、サービス、小売り、アパレル、金融、病院、製造、食品加工、清掃など多岐にわたります。
就労移行支援を受ける場所
利用者は、定期的に就労移行支援事業所に通ってトレーニングを行います。就労移行支援事業所は、福祉法人やNPO法人、民間企業などが運営しており、現在、全国に3,400か所以上あります。自分の住居地以外の地域にある事業所でも利用可能です。
サービス内容は事業所によって異なるので、複数の事業所をピックアップして比較検討し、自分に最も適しているところを選ぶようにしましょう。
通所のための交通費は自己負担が原則ですが、市区町村によっては交通費助成を行っているところもあります。就労移行支援事業所については、市区町村のホームページやwebサイトで調べることができます。
利用期間・1日のスケジュール
利用開始から2年以内に就職することを目指しているため、職業訓練から就職活動までの支援期間が原則2年間、就職して定着するまでの支援期間が6か月です。
通所日は週5日が基本ですが、体力に合わせて週3日くらいから始めることもあります。
就労移行支援は一般企業への就労を目指しているため、最終的には企業と同じように週5日通所できるようにトレーニングしていきます。
1日のスケジュールは事業所によって異なりますが、チャレンジド・アソウでは10:00~15:15まで、お昼休みが1時間で実質4時間15分です。
利用料金
利用料金は厚生労働省によって定められているもので、料金の9割は市区町村が負担し、1割を利用者が事業所へ支払うことになっています。
利用者の負担額は年収や利用日数によって異なりますが、月額の上限額が決められているため、利用日数が多くなってもそれ以上の負担は発生しません。
ちなみに、収入によって負担額が決まることから、利用者全体の9割の方は0円で利用されています。
世帯収入状況 | 負担上限額/月 |
---|---|
生活保護世帯、市区町村民税非課税世帯(おおむね年収300万円未満) | 0円 |
市区町村民税課税世帯(おおむね年収600万円未満) | 9,300円 |
上記以外 | 32,000円 |
就労移行支援で受けられるサービスは?
就労支援サービスは、まず利用者と支援スタッフとの面談からスタートします。利用者の体の状態や困りごとなどをヒアリングして、課題を整理してから次のような段階を踏んで就労へとつなげていきます。
1. 個別支援計画書の作成
利用者が支援を受ける目的は一人ひとり異なりますから、ヒアリングを通して得た情報を基にその人に合った支援計画書を作成します。
この計画書に、本人が障害者であることを確認できる書類(障害者手帳か医師の診断書または意見書)を添えて市区町村の障害福祉課に提出し、「受給者証」の交付を申請します。
この申請は利用者本人が行うことになっていますが、本人が希望すれば第三者が代行してもいいことになっています。その場合は、後日本人が障害福祉課に出向いて、調査員による聞き取り調査に応じる必要があります。
2. トレーニング実施
受給者証は約1か月後に本人あてに郵送されるので、事業所に持参してそこで事業所との利用契約を結びます。
その後、個別支援計画書に沿ってトレーニングを開始します。
トレーニングは、「一般教養」「ビジネスマナーの基本」「パソコンスキル」をベースに、資格取得のための講座やコミュニケーション力を高めるための講座など、事業所ごとに特色のあるカリキュラムが組まれています。
チャレンジド・アソウでは、トレーニングの成果がひと目でわかるように独自の評価ツール「ステップアップシート」を用いています。
それによって本人が「できていること、できていないこと」を認識することができます。個別支援計画書は3か月ごとに作成し直し、それを基にカリキュラムを組み立てていきます。
こうした「個別」を意識した支援を行うことで、目標達成のための課題を1つずつクリアしていくことができます。
3. 体験実習(インターンシップ)
事業所と連携している企業で体験実習を行います。
期間は1~2週間程度です。社員と一緒に働くことで、決められた時間内に集中して取り組むことができるようになったり、自分に足りないことや逆に人より勝っている点に気づくことができるので、働く自信を持てるようになります。
4.就労支援
トレーニングやインターンシップを通して本人の適性を把握したところで、就職活動を開始します。
事業所はハローワークや障害者職業センターなどと連携して、本人に最も適した職場を探します。
それと同時に、応募用紙の書き方や面接の受け方などを指導します。面接指導では、自分の障害特性の伝え方などもレクチャーします。面接当日は本人が希望すれば同行します。
5.定着支援
就職できたら支援は終わりではなく、まだ続きます。
入社後1,2か月目ごろは慣れない環境でストレスフルの状態です。
そのようなときに支援スタッフが職場を訪問し、問題はないか確認します。
本人には無理をせずに効率よく働くためのアドバイスをしたり、上司や同僚に対しては、負担にならない範囲で職場環境の整備を依頼したりして、長期就労できるよう双方の間に立って支援していきます。
そうしたきめ細やかなサポートによって本人は職場に適応でき、転職を繰り返すようなこともなくなります。
まとめ
ファロー四徴症などの障害のある人がハローワークで仕事を探そうとしても、担当者は障害について十分理解できていない場合があり、希望の仕事を見つけるのはなかなか大変です。
それに対して、就労移行支援事業所のスタッフは、ファロー四徴症についての知識はもちろん、本人の体力的なことを含む特性や就職に関する希望・条件などを把握したうえでハローワークや障害者職業センターなどの労働関係機関と連携して職探しをするので、ミスマッチングということがほとんどありません。
また、障害者雇用を検討している企業としても、本人に何か困ったことが起こったときの相談所として就労移行支援事業所がバックについていることで、安心して採用できるというメリットがあります。