顔の赤いあざが特徴的なスタージ・ウェーバー症候群は、毛細血管の形成不全によるものと考えられています。しかし、現段階では根本的な原因は解明されていないため、国の指定難病の1つとされています。
ここでは、スタージ・ウェーバーの診断と治療法について紹介するとともに、難病があるけれど一般企業に就職したいという人をサポートする「就労移行支援」について解説します。
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チャレンジド・アソウ 新大阪事業所 管理者
サービス管理責任者
監修:池田 倫太郎
株式会社チャレンジド・アソウ
立ち上げの中心メンバー。
就労移行支援事業、就労定着支援事業、
特例子会社の運営を行う。
スタージ・ウェーバーの症状
「スタージ・ウェーバー」とは、この症例を初めて報告したイギリスの神経科医William Allen Sturgeと、皮膚科医のFrederick Parkes Weberの名前を冠した病名とされています。
スタージ・ウェーバーの症状は、脳と皮膚、眼の3か所に現れるのが特徴です。3か所すべてに現れるとは限りません。脳と皮膚、皮膚と目の2か所、あるいは脳だけという場合もあります。
いずれも毛細血管の奇形など、生まれつきの血管構造の異常によって起きる症状とされていますが、なぜ血管の異常が生じるのか根本的な原因はわかっていません。
遺伝子変異という仮説もあり、複数の原因が想定されるため医学的には「スタージ・ウェーバー症候群」といいますが、ここでは「症候群」は省略して説明します。
次にそれぞれの症状について見てみましょう。
脳に現れる症状
頭蓋内の軟膜(脳と脊髄を包む髄膜のうち最も内側にある膜) に血管腫ができます。血管が集まったり広がったりしてできる腫瘍で、ほとんどが良性です。
ただ、血液循環が悪くなるため、てんかんや片頭痛、運動まひなどを併発することがあります。
てんかんの症状は、手足がピクピクけいれんしたり、動作が停止して意識がボーっとしている程度のものが多く、見逃してしまうこともあります。
しかし、てんかんは一度起きると重症化しやすく、てんかんの重症度と血管腫の範囲に比例して「精神運動発達障害(知的障害、運動障害、自閉傾向)」をきたす確率が高くなります。それがこの疾患の最大の問題点です。
皮膚に現れる症状
乳幼児期に見られるあざには、一般に「いちごあざ」と呼ばれる「乳児血管腫」もあります。いちごあざの場合は、生後数日から数週間後に出現し、どんどん大きくなって1歳あたりをピークにして5~10歳ころまでには自然消滅していくのがふつうです。
これに対してスタージ・ウェーバーの場合は、出生時から顔面や頭部に平らな赤あざが見られます。ポートワイン斑と呼ばれる「単純性血管腫」で、自然に消えることはありません。成長するにつれてあざの面積も広がっていき、盛り上がっていくこともあります。
顔面にできた場合、あざがある側は血流が豊富になるため、あごの骨や軟部組織が肥厚しやすく、永久歯が通常より早く生えてきたり、異常な部位に歯が生えたりします。歯周にも悪影響が出て早く永久歯が抜けることがあります。
眼に現れる症状
軟膜血管腫と毛細血管の形成不全によって眼圧が上昇し、緑内障を発症しやすくなります。視野が狭くなり、視力が低下し、失明に至ることもあり得ます。スタージ・ウェーバーの場合は、眼球の大きさに左右差が生じることもあります。
スタージ・ウェーバーの検査と治療法
スタージ・ウェーバーの患者さんは、顔のあざを消すために皮膚科を受診したところ、検査の結果この病気が発見されたというケースが多く見られます。
てんかんなどの症状が現れていなくてもあざがあったり、逆にあざはなくてもてんかん発作を起こすようなときは、スタージ・ウェーバーを疑って脳の検査を受ける必要があります。
軟膜血管腫とけいれん
まず、軟膜血管腫の有無を調べるために各種の画像検査が行われます。
-
MRI検査(磁気共鳴断層撮影)
血管腫の有無、脳萎縮、病巣の腫大などを調べる -
CT検査(コンピュータ断層撮影)
脳内の石灰化を調べる -
SPECT検査(シンチグラフィー)
脳内の血流を調べる
さらに、てんかん焦点(発作の発生源)を診断するために脳波検査が行われます。脳波の測定と同時に発作症状などの映像も記録できるビデオ脳波検査は、より的確に判断することができます。
検査の結果、軟膜血管腫が発見された場合は、血管腫に対する根治的な治療法はないため、てんかんの治療が主体になります。抗てんかん薬の吸収性には個人差があり、効果が得られるのは50~60%といわれます。
効果がなく発作が抑制されない場合は、精神運動発達障害を防ぐ目的でてんかん手術が検討されます。
手術法には、てんかん焦点のある大脳皮質の一部を切除する「焦点切除術」と、切除するのではなく、大脳皮質に多数の溝を入れる「軟膜下多切術」があります。
そのほか、脳の血流が停滞して血栓ができるのを防ぐためにアスピリンを投与したり、脳の石灰化予防のためにカルシウム拮抗剤を使用することもあります。
顔のあざ
スタージ・ウェーバーによる単純性血管腫は、歯の成長に影響することがありますが、それ以外に健康上のリスクはとくにありません。しかし、美容上の観点からレーザー治療を受けるケースが多く見られます。
血管腫には色素レーザーが用いられます。これは血管内のヘモグロビン(血色素)を標的に照射することであざを消していくものです。だいたい3か月の間隔をあけながら5~15回にわたって治療していきます。血管腫のレーザー治療はシミ取りなどの美容整形とは異なるので保険が適用されます。
緑内障
視力検査、眼圧検査、視野検査が行われます。緑内障が認められる場合は、点眼薬を用いて眼圧を正常範囲内に下げることで視野欠損を最小限にとどめることを目的とします。点眼薬の効果がない場合は、失明を防ぐために手術が検討されます。
スタージ・ウェーバーは指定難病の1つ
スタージ・ウェーバーは「難病の患者に対する医療費等に関する法律(難病法)」で、「指定難病」の対象とされています。「難病」と「指定難病」は次のような違いがあります。
難病と指定難病の違い
「難病」は次の4つの要件を満たすものと定義されています。
- 発病の機構(メカニズム)が明らかでない
- 治療法が確立していない
- 希少な病気である
- 長期の療養を必要とする
上の1~4に加えて以下の2つの要件も満たすものが「指定難病」と定義されています。
- 患者数がわが国において人口の0.1%程度以下である
- 客観的な診断基準が確立している
「指定難病」は重度の疾患として医療費助成の対象とされているのに対し、「難病」だけの場合は助成金を受けることはできませんので混同しないようにしましょう。
スタージ・ウェーバーの患者数は正確なところは不明ですが、日本では現在、0歳から成人まで含めておおよそ1,000人の患者さんがいると推定されます。
難治性のてんかんや精神運動発達障害を伴って長期治療を余儀なくされているケースや、軽度であっても高額治療を継続しなければならない人が少なくないので、患者全体の50~80%は医療費助成を必要としていると見られています。
医療費助成の内容
医療費の自己負担が2割になります。負担上限額も重症度や収入に応じて定められており、その額を超える分は負担する必要がありません。高額な治療が長く続く場合はさらに負担は軽くなります。
難病指定医の診断書が必要
医療費助成を受けるには、都道府県から指定を受けた「難病指定医」が記載した診断書が必要です。医療費の給付も「難病指定医療機関」で受けた治療に対して行われることになっています。
指定病院は「難病情報センター」で調べることができますが、大学病院や大きな病院であればどこでも該当します。
難病情報センター(http://www.nanbyou.or.jp/entry/5309)
申請のしかた
申請に必要な書類は市区町村によって異なりますが、「診断書(臨床調査個人票)」「住民票」「世帯所得確認書類」「保険証の写し」「同意書」が一般的です。必要事項に記入して市区町村の窓口に提出します。
それを都道府県が審査し、認定基準に該当すれば「医療受給者証」が交付されます。申請から交付まで2~3か月かかります。
受給者証の有効期間は申請から1年ですので、交付までの間にかかった治療費は手続きをすれば還付してもらえます。そして、申請から1年後の月末までに更新手続きをする必要があります。
スタージ・ウェーバーの人も利用できる「就労移行支援」
スタ―ジ・ウェーバーのある人は幼少期に治療を開始していることが多いのですが、思春期以降も精神運動発達障害が残存していて定期的な通院も必要なため、就職がままならないという人も少なくないようです。
そのような人たちをサポートするために設けられたのが「就労移行支援」制度です。
これは障害者総合支援法に基づく福祉サービスの1つです。以前は、利用対象者は障害者手帳を取得している人に限られていましたが、2013年に法律が改正されて、指定難病の患者さんも利用できるようになりました。
就労移行支援はハローワークで行われている職業訓練校に近いイメージですが、就職に必要なスキルアップにとどまらず、就職活動から就職後も職場に定着できるように継続してサポートしてもらえる点が職業訓練校との大きな違いです。
利用対象者
次の3つの要件を満たす人が利用することができます。
- 18歳以上65歳未満の人
- 身体障害、精神障害(統合失調症、躁うつ病、発達障害など)、難病のある人
- 一般企業への就労を希望し、就労可能と見込まれる人
一般企業の事業種は、軽作業、一般事務、パソコンを使う情報関連、販売、製造、食品加工、清掃など多岐にわたります。
利用料金
厚生労働省によって1日当たりの利用料金が定められており、9割を市区町村が負担し、1割を利用者が就労移行支援事業所(下記参照)に支払うことになります。
利用金額は前年度の収入や通所日数によって割り出され、上限額は下記のように決められています。しかし、利用者の大半は無料で受講しているというのが実状のようです。
区分 | 世帯収入状況 | 負担上限月額 |
---|---|---|
生活保護 | 生活保護を受給している世帯 | 0円 |
低所得 | 市町村民税が非課税の世帯(おおむね年収300万円未満) | 0円 |
一般1 | 市町村民税の課税世帯(おおむね年収600万円未満) | 9,300円 |
一般2 | 上記以外の世帯 | 37,200円 |
※20歳以上のグループホーム(障害者が援助を受けながら少人数で共同生活をする施設)利用者で、市町村民税課税世帯の場合も37,200円。
就労移行支援事業所
就労移行支援を受ける場所は、一般に「福祉事務所」や「福祉施設」と呼ばれるところです。運営母体は福祉法人やNPO法人、民間企業などで、全国に3,400か所以上あります(2018年現在)。自分の住所地以外の地域の事業所を利用することも可能です。
就労移行支援事業所は、市区町村のホームページでもwebサイトでも調べることができます。支援サービスの内容は事業所によって異なりますから、数か所をピックアップして資料を取り寄せ、比較検討したうえで最も自分に適したところを選ぶようにしましょう。
受給者証の交付
福祉サービスを受けるには、市区町村の障害福祉課に「サービス利用計画書」と、障害者あるいは難病患者であることを確認できる書類(医師の診断書や意見書など)を提出して、「受給者証」を交付してもらう必要があります。
申請手続きは本人でもできますが、利用する事業所が決まっていないと受給者証は発行されません。そのため、前もって事業所を選定し、手続きのサポートもしてもらうのが一般的です。受給者証は申請の1か月後くらいに本人あてに郵送されます。
利用期間
利用開始から2年以内に就職することを目指しているため、利用期間は2年が標準とされています。就職後に継続して行われる定着支援は6か月間です。それ以降も支援が必要な場合は、「就労定着支援」を受けることができます。
これは就労移行支援から独立したかたちで2018年4月から始まった新しい福祉サービスです。
就労移行支援で受けられるサービス
はじめに利用者と支援員が面談を行い、本人が抱えている生活上の困りごとや、心身のコンデジション、就職に対する希望などを共有し、利用計画書を作成します。
この計画書と難病患者であることが確認できる書類を市区町村に提出し、受給者証を交付してもらいます。
交付されたら、計画書に沿ってトレーニングを実施し、就労支援、定着支援へとスモールステップで進めていきます。
ステップ1 スキルトレーニング(職業訓練)
事業所ごとに独自のプログラムを設定して、利用者は自分のペースと必要性に合わせて選択するシステムになっています。
身だしなみ、パソコン操作、メモの取り方、電話応対などのビジネスマナーやコミュニケーション能力を高めるためのプログラムが中心ですが、生活リズムの整え方、遅刻や居眠り対策、休憩の取り方、薬の飲み忘れ防止策など体調管理に関するプログラムを用意している事業所もあります。
ステップ2 インターンシップ(体験実習)
事業所と連携している企業を訪問して、仕事を実体験します。それによって、社員として必要なことを学ぶことができ、また働く自信をつけることもできます。
実習期間は1週間~1か月です。実習期間中に企業側から能力を認められて正式雇用に結びついたという利用者も珍しくありません。
ステップ3 就労支援
トレーニングやインターンシップを通して本人の適性を把握し、就職活動の支援を行います。事業所は直接仕事を紹介することはありません。ハローワークや障害者職業センターなどと連携して本人に最も適した仕事を探します。
応募書類の書き方や面接の受け方なども指導し、必要に応じて面接にも同行します。
ステップ4 定着支援
無事に就職できても、職場になじめずにストレスフルの状態になってしまう人がいます。そのような人が離職しないように定期面談や電話相談でしっかりフォローします。職場の上司や同僚に対しても、負担にならない程度に難病患者に配慮した指導をお願いします。
こうしたきめ細やかな就労支援によって、障害や難病があっても1年後の定着率は90%という高率を示しています。
まとめ
事業所に通うのは2年前後の長期にわたりますから、通いやすいところを選ぶことが第一です。
距離的な通いやすさだけでなく、利用目的に合った事業所であることが大切です。そのためのチェックポイントをまとめてみます
- その事業所では、過去にどのような企業への就労実績があるのか。その中に自分の希望する業種は含まれているか。
- 自分が習得したいことがプログラムに組まれているか。
- 事業所の雰囲気や支援員の応対のしかた、ほかの利用者の様子を見て通いたいと思うかどうか。
1,2は事業所のパンフレットやwebサイトでもある程度判断できますが、3番目に関しては自分の目で確かめるしかありませんから、事前の見学は必須です。その結果、「ここなら通いたい」と思うところを選ぶようにしましょう。