チック症は、意図しない運動や音声が、急に、繰り返し出現するするため、仕事や日常生活に支障をきたす病気です。就学前後に発症することが多いですが、チック症の原因はまだ詳しくはわかっていません。
チック症は、注意欠陥・多動性障害や強迫性障害と合併することが知られており、ストレスや疲労などで症状が出ることもあるようです。
この記事では、チック症の症状やその種類、原因や診断基準、治療法までをご紹介するとともに、大人のチック症によって困っている方が受けられる支援や就職・仕事探し、職場の選び方についてご紹介します。
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チャレンジド・アソウ 新大阪事業所 管理者
サービス管理責任者
監修:池田 倫太郎
株式会社チャレンジド・アソウ
立ち上げの中心メンバー。
就労移行支援事業、就労定着支援事業、
特例子会社の運営を行う。
チック症とは
チック症とは、本人の意思に関係なく、急に、瞬き(まばたき)や肩をすくめる、顔をしかめる、咳払いや奇声を上げるなどの動作を繰り返してしまう疾患です。
詳しくは後述しますが、症状によって「運動性チック」と「音声性チック」に分けることができます。
そして、チック症は、就学前後の5歳~6歳ごろの子どもに単純性運動チックで発症することが多いとされます。症状は自然に弱くなったり強くなったりすることが知られており、多くの方の場合、1年以内に症状が消失します(一過性チック障害)。
しかし、慢性化した場合、思春期に症状が最も強くなります。それでも、子供~成人になるにつれて殆どの方が改善あるいは症状の消失が見られるようです。
なお、運動性チックと音声性チックの両方が1年以上見られる場合、「トゥレット症候群」という名称で呼ばれます。
チック症の症状と種類
チック症は、大きく分けて「運動性チック」、「音声性チック」に分類することができ、さらにそれぞれ、単純性のものと複雑性のものとがあります。
症状の出現の前には、どうしてもその症状をしたい、という気持ちが強く高まり、症状が出現すると一時的にすっきりすることがあります。ある程度、意識的に症状を抑えることも可能です。
チック症の種類 | 単純性/複雑性 | 症状 |
---|---|---|
運動性チック | 単純性 | まばたき、肩をすくめる、顔をしかめる、首を急速に振る運動、など |
複雑性 | 蹴る動作、ジャンプする、自分を叩く、倒れ込む、など | |
音声性チック | 単純性 | 咳払いをする、鼻を鳴らす・鼻をすする、「ん」と声を出す、唸る、吠える |
複雑性 | 自分自身の音声や言葉を繰り返す(反復言語)、他人が言ったことを繰り返す(反響言語)、その場にそぐわないことを言う(汚言) |
また、チック症には3つの主要な病型があります。
病型 | 症状 |
---|---|
<暫定的チック症 | 運動チックまたは音声チックがみられるが、持続期間が1年以内の場合 |
持続性(慢性)運動または音声チック症 | 運動チックまたは音声チックの一方だけが1年以上みられる場合 |
トゥレット症候群 | 運動チックと音声チックの両方が1年以上みられる場合 |
チック症の原因
チック症の原因は詳しくわかっていませんが、家庭内に多発する傾向があることがわかっています。そのため、遺伝的要因がチック症の発症に関与していると考えられています。
しかしながら、チック症は必ずしも遺伝的要因のみが原因であるわけではなく、環境要因や気質要因が作用することによって現れるとされています。そのため、現在、チック症の原因として以下の3つが考えられています。
遺伝要因と生理学的要因
遺伝要因と環境要因はチック症の出現と重症度に影響するとされ、トゥレット症候群の重要なリスク対立遺伝子と、チック症のある人の家族にみられる遺伝子変異は同じものです。
また、出産の際に生じた合併症、父親の高年齢、低出生体重、妊娠中の母親の喫煙が、チックの重症度の悪化に関連しているとされています。
環境要因
相手の身振りや音声を意図せず真似する場合があります。権威のある立場の人(例:教師、上司、警察官)とかかわる際には、問題になる場合もあります。
気質要因
チック症は、強いストレスや疲労、不安や興奮によって悪化し、落ち着いて集中しているときは改善します。
そのため、学校のテストや仕事に追われているときなどには、しばしば悪化することがあります。
なお、チックは、コカインやアンフェタミンなどの特定の薬剤の使用によって生じることもあります。しかし、他の病気や薬剤によって引き起こされたチックは、チック症とはみなされません。
また、チックが始まった小児においては、レンサ球菌(溶連菌)感染症にかかっていることがあります。この場合は、小児自己免疫性溶連菌感染関連性精神神経障害と呼ばれ、レンサ球菌を排除するために作り出された抗体がチックの発生や悪化の原因になっていると考えられることもあります。しかし、多くの研究者がこの関係を証明する証拠はないと考えており、未だ解明されていません。
チック症の診断基準
チック症は、その症状と経過から、比較的容易に診断がつくことが多いですが、てんかん発作や強迫行動など他の疾患と紛らわしい症状がある場合もあるため、詳しい検査が必要なこともあります。
チック症の診断は、症状とその持続時間に基づいて下されます。チック症には前述したように、以下の3つの主要な病型があります。
病型 | 症状 |
---|---|
暫定的チック症 | 運動チックまたは音声チックがみられるが、持続期間が1年以内の場合 |
持続性(慢性)運動または音声チック症 | 運動チックまたは音声チックの一方だけが1年以上みられる場合 |
トゥレット症候群 | 運動チックと音声チックの両方が1年以上みられる場合 |
DSM-5
暫定的チック症 | |
---|---|
A | 1種類または多彩な運動チックおよび/または音声チック。 |
B | チックの持続は最初にチックが始まってから1年未満である。 |
C | チック症の発症は18歳以前である。 |
D | この障害は物質(例:コカイン)の生理学的作用または他の医学的疾患(例:ハンチントン病、ウイルス性脳炎)によるものではない。 |
E | トゥレット症または持続性(慢性)運動または音声チック症の基準を満たしたことがない。 |
持続性(慢性)運動または音声チック症① | |
---|---|
A | 多彩な運動チック、および1つまたはそれ以上の音声チックの両方が、同時に存在するとは限らないが、疾患のある時期に存在したことがある。 |
B | チックの頻度は増減することがあるが、最初にチックが始まってから1年以上は持続している。 |
C | チック症の発症は18歳以前である |
D | この障害は物質(例:コカイン)の生理学的作用または他の医学的疾患(例:ハンチントン病、ウイルス性脳炎)によるものではない。 |
持続性(慢性)運動または音声チック症② | |
---|---|
A | 1種類または多彩な運動チック、または音声チックが病期に存在したことがあるが、運動チックと音声チックの両者がともにみられることはない。 |
B | チックの頻度は増減することがあるが、最初にチックが始まってから1年以上は持続している。 |
C | チック症の発症は18歳以前である。 |
D | この障害は物質(例:コカイン)の生理学的作用または他の医学的疾患(例:ハンチントン病、ウイルス性脳炎)によるものではない。 |
E | トゥレット症候群の基準を満たしたことがない。 |
該当すれば特定する | 運動性チックのみを伴う or 音声性チックのみを伴う |
トゥレット症候群 | |
---|---|
A | 多彩な運動チック、および1つまたはそれ以上の音声チックの両方が、同時に存在するとは限らないが、疾患のある時期に存在したことがある。 |
B | チックの頻度は増減することがあるが、最初にチックが始まってから1年以上は持続している。 |
C | チック症の発症は18歳以前である。 |
D | この障害は物質(例:コカイン)の生理学的作用または他の医学的疾患(例:ハンチントン病、ウイルス性脳炎)によるものではない。 |
ICD-10
チック症と他の運動性障害とを判別する点は、以下の通りです。
- 「突発」「急速」「一過性」「限局性」という運動の性質があること
- 神経疾患を持っていないこと
- 反復性があること
- (通常)睡眠中は消失すること
- 随意的に(意識したら)簡単に再現できる、あるいは簡単に抑制できること
チック症には、律動性(規則性)が欠如しているので、自閉症や精神遅滞の一部の例で見られる情動反復運動からは区別することができます。
また、自閉症や精神遅滞でみられる衒奇的な運動(不自然でわざとらしい動作や表情など)は、チック症で見られるものよりも多様で複雑な運動を含む傾向があるため、この点もチック症の診断基準となります。
一方で、強迫行動は複雑性チックと特に似ているため判断が困難な場合があります。何か目的があって行っているのかという点が異なりますが、区別するのが難しいことがあります。
また、チック症は強迫性障害や注意欠陥・多動性障害などを合併することが多いので、診断は異常度によって判断されることが多いようです。
チック症の治療法とは?何科の病院に行けばいい?
チック症は、症状が軽い場合、特に小児期の一過性チックの場合は特に治療をせずに経過を見るという場合が多いです。ただし、本人や周囲の方がチック症について正しく理解し、学校など社会生活にうまく適応よう支援が必要です。
一方で、チック症の症状が強い場合には、薬物療法が行われることがあります。また、合併する発達障害や強迫症状が生活を困難にすることもあるため、それらに対する対応も必要です。
チック症の治療法としては、現在、以下の4つの方法が挙げられます。
心理教育および環境調整
心理教育では、チック症の本人や家族、学校や職場など、周囲で関わる人々への症状への理解を促します。環境調整では、チック症の症状自体の治癒や消失ではなく、症状の悪循環防ぐことを目的とします。
ストレスがかかる環境であればストレスを減らす工夫を行ったり、周囲の人からチック症状に対して直接的な指摘をしないような配慮、症状が悪化した際に退避できる場所を用意したりします。
認知行動療法
認知行動療法とは、学習の法則に基づいた行動の調整を目指す行動療法と、本人の認知の仕方を変えることでストレス軽減を目指す認知療法を合わせた方法で、心理的治療の一種です。
例として「ハビット・リバ-サル」(チック症の症状と両立しないような動きをするように訓練する)などの方法があり、成人にも有効であるという海外での研究結果があります。
薬物療法
重症なチック症に対しては、薬物療法を行うこともあります。治療の際は、チック症だけではなく併存症も含めたどの症状に的を絞るのかという点や、副作用の程度も考慮して処方する薬が選択されます。
チック症の治療薬で最も一般的なのはドーパミンの働きを抑える抗精神病薬です。しかし、副作用として眠気や動Aきが鈍くなるなど症状が出ることもあるため、チックの出現が改善したら服薬量の減量を試みながら調整していく工夫も必要です。
外科治療
上記の療法で軽快しない難治性のチック症の場合は、深部脳刺激療法(DBS)という手術の選択もあります。これは大脳基底核に電極を埋め込んで持続的に刺激し、脳活動に変化を加える手術です。まずは、上記の3つの治療法でチック症の軽減を目指しましょう。
何科の病院に行けばいい?
チック症は小児〜青年期の発症が多いので、主に小児科や小児神経科・児童精神科で診察を行っています。しかし、成人期になって初めて医療機関を受診する場合には、年齢制限のため診察を受けられないこともあるようです。
その場合は受診前に成人のチック症の受診が可能かどうかを病院に問い合わせるか、精神科や神経内科を受診したりするのがおすすめです。特に、児童思春期や発達障害を受け入れている医療機関では、大人も治療を受けやすいでしょう。
NPO法人日本トゥレット協会のホームページの「トゥレット症候群が診察できる医療機関一覧 」もぜひご参考ください。
チック症の方が受けられる支援
チック症・トゥレット症候群は、日本の行政においては発達障害の定義に含まれています。
そのため、軽度のまばたき、咳払い等の一般的なチックではなく、重症な多発性チックを伴うトゥレット症候群の場合、障害者手帳を取得し福祉サービスを利用できるケースもあります。
手帳を持つとさまざまな福祉サービスが受けられるようになる以外に、仕事を探す際、就労移行支援を利用することができたり、障害者雇用枠の応募が可能になります。
医療支援
チック症・トゥレット症候群の方は「自立支援医療」を受けることができるほか、精神障害保健福祉手帳の発行も可能です。
受けられる支援 | 内容 |
---|---|
自立支援医療(精神病院) | 通院治療にかかる治療費や薬代の負担が原則1割となる。 |
精神障害者保健福祉手帳 | 税金の控除や公共料金の免除、福祉サービスが受けられる。 |
市区町村の役場に申請書、意見書,所得確認書類等を提出する必要がありますが、医療費の負担の軽減や、各種サービスを受けることができます。
詳しくは、各自治体の窓口(障害福祉課など)や通院している病院・診療所に問い合わせてみてください。
就労支援
チック症・トゥレット症候群は、発達障害に含まれるので、就職の際には就労移行支援を受けることができます。
就労移行支援は、障害者手帳をお持ちか、もしくは医師による障がいの診断のある~65歳までの就労意欲のある方が利用することができます。
就労支援サービスは各市区町村の障害福祉窓口をはじめ、各事業所のWEBサイトからも申し込むことが可能。面談を行ったうえで事業所へ通い、職業訓練やインターンシップを通して就職活動ができる状態までサポートします。就職が決まったあともサポートは続き、きちんと職場に定着できるまで手助けをしてくれるのです。
住民登録をしている市区町村でなくても利用できるため、訓練プログラムの内容や事業所の雰囲気を比較して、自分に合う事業所を探しましょう。
まとめ
チック症は、原因が解明されていない疾患であるため、まだ根本的な治療法がありません。
また、意図しない動作や発言をしてしまうチック症特有の症状のために周囲からの誤解や偏見も多く、社会生活で辛い思いを抱えている方も多いと考えられます。
しかし、適切な治療を受けながら生活に工夫をすることで、症状を和らげながらチック症と上手く付き合って暮らしていくことは可能です。チック症のある大人の中でも、自分から働きかけて環境調整をすることで活躍している方はたくさんいらっしゃいます。
チック症の方も、医療支援や就労移行支援サービスなどの就労支援を利用して、適切な治療を受けつつ、自分にあった働き方をしていくことが大切です。